煌めきはSpica





――――イタリア郊外、旧レストーレファミリーアジト

一人の青年が、鈍く冷たい色を放つ鉄の武器を片手に冷めた瞳で自分の目の前に横たわる屍たちを見ていた。否、見下すと言った方が正しいのかもしれない。

侮蔑と嫌悪の混じった視線で屍を見下ろすその姿には、歴戦の王者のようでいて悪を統べる絶対的な力も感じさせる。

ツ、と青年の鉄の武器をまだ生温かい紅が伝う。

つい先ほどまで屍の体内を巡っていたそれは、行き場を失い地面に吸い込まれて消えた。



「……フン」


この程度か。

声には出さないものの明らかな嫌悪感を込めて青年は踵を返す。所詮この程度なのだ。いかなるものであろうとも自分と対等に戦えるものなどいはしないのだ。それと同時に、自分の興味を引く人間もしかり。

それは、彼の上司でありボスであると言えるであろう者にとっても言えることではあった。確かに、面白いとは思う。だが、それまで。

仮にもボスであるのだから殺すのはまずいだろう。

幾ら傍若無人な青年でもそれくらいの分別はわきまえている。無論、腑抜けでもすればすぐにでも咬み殺してやろうと思っているのだが。



「………つまらないな」



ポツリと呟いた言葉は、彼の本心であった。

青年の心は幼い子供の様。気分屋で、我儘。そして、それと同じように幼いころにたった一つ彼が執着していたといえるであろうものを置いてきてしまったのだ。

大切だった、と言えるのだろう。

守らなければと思うと同時に、共にありたいと願うようになった。

それは、他の弱い人間が言う愛情と呼べるものなのではないだろうかと今更ながらに思うようになった。


あの時、君を突き放さなかったら。

あの時、君に共に来てくれと言えていたら。


何かが変わったのだろうかと思う反面、これでよかったと思う自分もいた。

マフィア、裏社会と呼ばれる薄汚れた世界を君に見せなくてよかったと思う。

そう、これでよかったんだ。



「また、春が来るね」


僕は桜が嫌いだ。

それは、あいつとの戦いで屈辱的な負け方をしたのも確かに理由にあるかもしれない。だけど、それと同じくらいに君を僕から奪っていった桜が嫌いで嫌いで仕方がないんだ。













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