やってきた旅人
■ ■ ■
「彼ら」は、突然やって来た。
ガチャ、「す」
「わっ」
扉を開けた瞬間、飛び込んできたのはざあざあという大雨の音とともに、聞き覚えのない低い声。
驚き目を白黒させるノザの前で、ずぶ濡れの茶髪少年2人もまた、その目をぱちくりさせた。
「……え、ええーと、お客様?」
森の奥深く、この古びた教会に訪れる人間は数少ない。それもこんな土砂降りの中でと言えば、おのずとその身元は限られてくる。
だが、返って来た答えは、
「……すまない。雨宿りをさせてもらえないか」
ノザの予想を超えた、全く異なるものだった。
「……へーえ。2人で、旅を?」
「ああ。探している物があるんだ」
「あ、すみません、わざわざ……。ありがとうございます」
「ん、いやこれくらい何も」
わしゃわしゃ、タオルで茶髪少年A(ノザが命名)の頭を拭いてやれば、途端に相手は申し訳なさそうな顔をする。
長椅子、並んで座った彼ら2人は、どこからどう見ても瓜二つ。まるで神威と昴流みたいだな、なんてノザはぼんやり考えた。
いや、みたい、と言うにはちょっと間違いがあるかもしれない。彼らはそっくりだったけれど、一方(ノザが頭を拭いている少年A)はちょっとほんわりした優しげな雰囲気で、もう片方(こちらもノザが勝手ながら少年Bと名付けた)はきりりと鋭い印象を与える、つまり正反対な気質の2人組だったのだ。
つまり、「みたい」というより「もろ」神威と昴流にそっくりだった。
「森を抜けて町に着く前に、大雨が降ってきてしまって……」
「すまない。雨が止んだらすぐ出て行く」
「やーやーこれくらいなんでもないよー、部屋も余ってるし好きなだけ休んでって。さっき、まったく同じ理由で駆け込んできたツンデレ兄さんもいることだしー」
「誰がツンデレだ!」
ぶんぶんと手を振るファイの後ろ、ひっかぶったタオルで頭をわしゃわしゃと拭く黒鋼が、半眼で怒鳴る。だが当然、ファイはどこ吹く風だ。
「俺もおんなじ、居候させてもらってるようなもんだから、ファイに甘えていいと思うよ。あ、俺ノザ」
「……ありがとうございます、ノザ。俺はシャオランといいます」
「俺は、小狼」
すっかり乾いた髪からタオルをどける。律儀にお礼を繰り返す少年Aと、凛とした瞳でこちらを見据える少年Bを、ノザは交互に見つめた。
「……名前、おんなじ?」
「ちょっと違うんです。字で書くとわかりやすいんですけど……」
「紛らわしいなら、適当に呼んでもらって構わない」
淡々と言ってのける少年Bに一瞬、ノザは考え込むと、やがて口を開いた。
「……じゃあ、少年AとBっていうのは――」
「それはさすがにやめとこうかーノザ」
数日後。
「あ、シャオラン。おはよ」
「おはようございます、ノザ」
ドアを閉めると同時、隣の部屋の扉がガチャリと開く。
中から現れた跳ね気味の茶色の髪を見て、ノザは小さく吹き出した。
「シャオラン、髪跳ねてる」
「えっ?!ほんとですか?」
「んでもって敬語になってる」
「え、あ、ああー……」
扉を閉めつつ、シャオランが困った顔になる。
「俺明らか年下なんだし、そんな気遣わなくていいのに」
「すみま、……ごめん。なかなか慣れなくて。でも嬉しい」
「へ?」
「敬語じゃないって、……距離が近く感じられて」
言いつつ照れたように顔を赤らめる、その表情に不覚にもノザはきゅんっときた。
普段、自分の周囲にこういうタイプがいないから、なおさら可愛く思えてしまう。
「……シャオランっ!モコナといっしょに、俺のペットになってくれないかなー!」
「へっ?!ノザ?!」
突然、思いっきり首に抱きついてきたノザに、シャオランはただただ目を白黒させた。
(「……あー可愛い。なんかこういう可愛い感じ久々すぎてすごく可愛い」
「……俺から見たら、ノザも十分かわいいんだけど」
「へ?」「え?」)