教会のミモザ | ナノ



真っ黒な彼

■ ■ ■


「あ、この方が例のツンデレさん?」
「……誰だ、この初っ端から失礼なガキは。おい神父」

 扉を開けた途端、目の前にぬっと現れた体を見上げ、ノザが振り返った。
 頬を引き攣らせた黒鋼が目をやる先、いくつも並んだパイプ椅子のひとつに腰掛けていたファイは、顔を上げるとああー、と笑う。

「そうそう、彼がツン9割のツンデレさんー。この森の近くにある街の、自警団の人だよ」
「へえー。だからこんなにでかいのか」
「誰がでかいだ、んでもって何がツンデレだ。てめーはいい加減なことばっか言うんじゃねえ!」
「ちなみに黒ぽんの前にいる超絶キュートな彼は、ノザだよー。1週間前から、教会の空き部屋貸してるんだー」
「誰が黒ぽんだ!やめろソレ!!」

 青筋を立てた黒鋼を気にした様子もなく、ファイはへらっと説明する。
 目の前で怒鳴られつつ、へえ、とノザは頭上を仰ぐ。自分より遥かに大きい、屈強な身体。もしかしたら、いや確実に神威よりもでかい。
 じっ、と下から見上げていると、視線に気が付いたのか、あ?と眉を寄せ相手はこちらを見下ろしてきた。睨んでいるのかと勘違いしそうな目付きの悪さだったが、神威も普段はこれくらい鋭い目をしているので、今さらノザはひるまない。

「……何だ、ガキ」
「ノザです」
「……ちっ」

 あっ、今こいつ舌打ちしたな。

「なんでもいい、とりあえずそこどけ。入れねえっての」
「……わかりました。どうぞ、」
 扉を開ける補助をしつつ、すっと横にどいて、それからひとこと。


「黒ぽん」


「〜〜!!てっめえ!」
「あはははは!!ノザ最高ー!!」
「腹抱えて笑い転げてんじゃねーよこのテキトー神父が!そもそもてめーが事の発端だろうがっ!!」
「い、いやあはははは!!やっばいお腹痛い、あははははは!!」
「……殴りてえ」
「何の騒ぎだ」

 床の上で悶えつつ爆笑するファイに、握った拳をぶるぶる震わせながらずんずんと近付く黒鋼。
 ノザはしれっと傍観に徹しながらも、どのタイミングでまた「黒ぽん」と呼んでやろうかな、とひとり画策していた。
 そんな随分カオス化した、教会の奥から現れたのは。

「あ、神威」
「ノザに、神父……と、誰だ」
「は?また見たことねえ奴が……。おい、どういうことだ、神父」
「あはは……くっ、ははっ……」
「まだ笑ってんのかよてめーは!!」

 一瞬険しくなった黒鋼の表情は、真下で震えるファイを見た瞬間にきれいに崩れた。

「……俺は、神威だ。ここで、居候させてもらっている」
「俺の家族だよ。血は繋がってないけど」
「違う。恋人だ」
「ぶふっ!……や、勘違いしないでもらいたいんだけど、黒ぽん。これは神威なりの愛情表現であってほんとじゃないから。ね、黒ぽん」
「黒ぽん黒ぽん連呼すんじゃねぇ!てめーはそれが言いたいだけだろうが!!」

 がうっとノザに噛み付いた黒鋼の前に、突如、ぱっと神威が立ちはだかる。

「あ?んだてめぇ」
「……ノザに近づくな。目障りな害虫は、腑抜けた神父1人で十分だ」
「もしかすると、いやもしかしなくてもそれってオレのことかなー、神威君」

 やっと笑いの渦から逃れられたファイが、よろよろと立ち上がる。
 「むしろ他に誰がいる」と神威はあっさり肯定した。

「だ、だから神威!お前居候させてもらってるとか言いながらそんな態度……!」
「生活の援助に対しては感謝してるけど、ノザを狙うなら話は別だね」
「?!今どっから湧いてきた昴流?!」

 ぎゃあぎゃあわめく少年、そしてその両隣を挟む双子の姿に、勢いを削がれた黒鋼は1人、何とも言えない顔をした。



「……妙なの住ませてんな。神父」
「うん、ちょっとねー。ちなみに俺のお気に入りは真ん中のノザー」
「誰もんなこと聞いてねえよ……」






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