咆哮する魔術
■ ■ ■
「……っ、え」
呆然と、動けないまま顔を上げる。
迫った刃を受けたのは――自分では、なかった。
「い、たた……っ、何してるの、ノザ……」
「え、……なん、で、ファイ」
「好きな子が目の前で殺されそうなのに、庇わない人間なんて、いないでしょー」
へらり、いつものように笑って答え、
次の瞬間、ファイの体は崩れ落ちた。
「ファイ!!」
「っ……」
地面に崩れ落ちたファイが、顔を押さえ、うめく。
その歯が苦痛に食いしばられているのを見て、ノザは全てを理解した。
剣を揺らし、血を振り落とすシャオランの真顔。そして、足元で倒れるファイの顔から――瞳の位置から流れ出る、真っ赤な血の筋。
雨が降っても降っても、薄まらない鮮明な赤。
それは、ノザの目に嫌と言うほど焼き付いた。
「……ファ、イ……ッ」
「……逃げて、ノザ」
「!」
何を、言って。
混乱したままファイを見つめれば、彼は微かに微笑んだ。手で押さえられたその隙間から、微かな囁きが届けられる。
轟く雷と雨音の中でも、その声はなぜかはっきり聞こえた。
「……シャオラン君を、魔術で攻撃なんて、でき、ないだろう……だから、逃げ、て」
ぎらり。雷光に、またも白銀が光る。
はっとした。シャオランが、静かに剣を持ち上げる。
その切っ先は――地に伏すファイの、頭。
「……逃げて。逃げるんだよ、ノザ」
「……っ、」
「オレを、置いていって」
ファイが、優しくそう言う。激痛を感じているはずなのに、いつもと少しも変わらない、温かさに満ちた声で。
鋭い切っ先が、振り上げられる。
「……ファイ、」
こんなのって、あるか。
拳を握る。口を開いたまま、声にならない声をあげていた。
嫌だ嫌だ嫌だ。ダメだ、だってそんなの。
シャオランが、剣を振り下ろす。無表情に刃が落ちる。
叫んでいた。
何か考える前に、血を吐くように叫んでいた。
「――――!!!」
雷が、轟いだ。