6thバトルver.妹
■ ■ ■
「……ほーお。おめーが今回の俺の相手か」
「ドーモこんにちはアランさん。前回どっかの尻軽男にレディファーストで一応勝ちもらっちゃったミモです、どうぞお願い致しますー」
「案外礼儀正しいんだな」
「アランさん前回のウォーゲームの覇者じゃないですかー、敬意は示しますよ。それに私、年上には基本礼儀を尽くしますー」
「あのアルヴィス中毒みてーな兄貴に、その爪垢煎じて呑ませた方がいいんじゃねぇか」
「ゲホッ。ちゅうどく、て。……ま、確かにそれはそーかもですねえ」
「さて、野暮ってー前置きはこれくれぇにして。……始めるぜ」
「はーい。私負けるつもりはないんで、ぜひよろしくお願いしまーす」
「……良い気概だ」
負けるつもりはない、と言った。
アレは嘘ではない。本気で本当だ。
だが、この相手は。
「……やっぱ、シャトンに任せておくべきだったかもしれませんねー」
私はぼそっと呟いて、頭を飾るカチューシャを外した。
目の前には膨れ上がる爆炎。このフィールド全体を飲み込まんとするかのごとく巨大化するソレは、文字通りどんどん膨れていく。
「……しかたない、かなあ」
今にも迫りそうな炎を見つめて、ため息。
手の内に落ちるのは、炎に照らされ赤く光る、銀のカチューシャ。
『……これはゴーストアーム。"アリウネの文字盤"』
『……ゴースト?』
『そう。自身の肉体を時計に変えて、少しの間、時間を自由自在に操ることができる』
『そんな貴重なものを、私に?……なるほどー、さては裏があるんですね?』
『裏、って』
ファントムがおかしそうに小さく吹き出す。
『そんなものないよ。それにコレは、1度使っただけで術者の肉体を破壊してしまうほど強力だ。ボクは君に、これをアームとして使って欲しいとは思っていないよ』
『え?』
『これは、ボクからの証。僕がこれほどまでに君のことを認めているんだっていう、その印だよ』
『……あー、なるほど。つまりこのアームと同じくらいの価値が、私にはあるってことですね?』
『んー……それは、少し違うかな』
『は?』
『ボクがそのアームを贈ろうと思ったのは、』
この銀色がきっと君によく似合うだろうなって、そう思ったからだよ。
「……バカみたいですねー」
呟き、空に放る。
そのまま、一点に魔力を集中させたところで――。
「――ダメだ、ミモ!!」
背後からふわりと自分を引き寄せる、冷たい両腕の感触を覚えた。
「……は?」
「……危なかった」
ぽかんと見上げる私。真上を覆うファントム。
え、というかここはどこですか。明らかフィールドじゃないんですけど。
頭の下に感じるはふかふかした絨毯。あとその下の床。
つまり、私は。
「え、……レスターヴァ城?!」
「そうだよ。間一髪だった」
「いやいや何言ってるかちょっとわかりませんけど、とりあえず私はウォーゲームに戻らないとへぶっ?!」
「君の負けだよ」
「……は」
私の口を押さえたファントムが、今までにないほど平坦な声で言う。
「……ま、け……?」
「そう。ボクからポズンに伝えておいた。途中でボクが強制移動させたんだし、メルの勝利だよ」
頭の中で、言葉がぐるぐる回る。わけがわからない。
「……それ、って。つまり、」
私、もう闘えないじゃないですか。は?
バカ兄は前回、見事に自ら負けを選択しましたし、これ以後私達兄妹に出番はありません。は?ナイトクラスだっていうのに、もう終わり?え?
私はすぐ側の瞳を見つめます。え、だって。
じゃあ、もうこの人の役に立つこと、できないじゃないですか。
「……大馬鹿だね」
「……は」
嘘ですよね、私が茫然としたその瞬間、
ふいに抱きしめられる両の肩。え?
「……なんで、使おうとしたんだい。あのアーム」
「なんで、って。だって、あのままじゃ負けるじゃないですか」
「でも、使ってたら君が死んでたよ」
「負けるくらいなら死にますよ」
だって、あなたの役に立てないんですから。
そう言い終える前に、唇を塞がれました。
柔らかく、優しい――は?唇?くち、で?
「……怒るよ。ミモ」
「……は、え、いやちょっと、」
「ボクは君を、役に立てる立てないかなんかで、見ていないよ」
「いやその、えーと?聞いてますか私の話ー?」
「だって君は、」
少しだけ顔を起こしたファントムが、小さく微笑んだ。
ボクの、1番大切な人だから。
「……なっ、なっ……」
「顔、真っ赤だねえ。ミモ」
「……ふ、ざけないでください、誰が」
「強情張らないでいいのに。ねえ、君も同じ気持ちなんでしょう?」
「!だ、れが、……!!このアホ変態ねじ抜け上司が、」
「そんな嘘言う口は塞いじゃおうか」
「ちょ、調子に乗んなっての!!」
(「……ファントム。どうしたんですその頬は」
「これ?ミモに2回目のキスしようとしたら殴られた」
「ごほげほっ。……は、はあ、そうですか」
「ツンデレだからね。仕方ないんだ」
「……はあ。そうですか。なんにせよ、おめでとうございます」
「うん、ありがとう、ペタ」)