混迷のTriangle | ナノ



毒された神経が疼く

■ ■ ■


 気に食わない?いやそれはない。
 雲雀はイライラとしながら書類を整理する。ペンを入れる。
 その右手にきらりとリングが光っているのを見て、さらにイラッとする。なんだかむかむかする。胃のあたりが煮えるような感覚がした。

 別にいいじゃないか、と雲雀は思う。どちらにせよあのうっとうしさが解消されるわけじゃない。ただあれだけ雲雀雲雀と言っていたのが、こうもあっさり対象が変わると、あっけなさ過ぎてムッとするというか。いや別に、雲雀恭弥好きだ口説きたい落ちてくれだのなんだのという戯言が、一切無くなったというわけでもないが。

「……馬鹿は僕か」

 呟き、再びペンを書類に走らせたところで――リングが、揺らめく。
 眉を寄せて雲雀が顔を上げると同時、机の向こうにゆらり、発光する銀髪の姿が現れた。

「……何しに来たの」
「あの子は、いないね」

 口を開き、いつも通りの言葉を吐く。だが相手はすばやく周囲に視線をやると、いつもと違う返しをしてきた。

「は?」
「あの子だよ。ユーリ・テンペスタ」

 アラウディの口からその名前が出た瞬間、背筋がゾクッとした。それは悪寒でも恐怖でもなく――殺気。
 驚いた。自分でもわけがわからないほど、しかし雲雀は確かな殺意を感じていた。
 誰に?目の前の、この男に?
 なぜ?

「……あの子について、少し話をしておきたいんだ。雲雀恭弥」
「冗談じゃないよ。テンペスタについて、あなたと話す事なんてひとつもない」

 とっさにそう切り返す。声が震えないようにするので精一杯だった。
 苛立ち。ムカつき。憎しみ。怒り。
 どれでもなかった。しかし、確かに嫌だと思った。
 眼前、佇む相手の口から――あの、彼の名前が紡がれるのは。

「そう言わないでくれる。先に結論だけ口にしたって、君は納得なんてしないだろう」
「何、結論って」

 ぞわぞわした。背中を、胃の底をくすぶるその感覚に、雲雀はやっとこれが何というものなのか気が付いた。
 不快。
 そう、不快なのだ。それも喉元からどろどろする物がこみ上げるような、不快さ。
 こちらの内心を知ってか知らずか、薄い水色の瞳は音もなくすっと細まった。


「あの子は、ユーリ・テンペスタは……僕のものだよ」



 その瞬間、相手をトンファーでめった打ちにしてぐしゃぐしゃのグチャグチャにしてやりたいという思いが、雲雀の頭を一瞬だったが確かに掠めた。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -