混迷のTriangle | ナノ



斜め上の思惑

■ ■ ■


 彼とはここ数回顔を合わせてはいるが、それでもこれほど驚いた顔をしているのを見たのは初めてだった。


「君は……!」
「えっ待って、その雲雀恭弥ソックリな顔にプラチナブロンド、青い瞳……まさかのまさか、いやこれは十中八九、初代雲の守護者アラ――」「ユーリ・テンペスタ!!」

 勢いよく意気込んだユーリが一歩出るより早く――なんと、アラウディの方から両腕を伸ばし肩を掴んだ。
 当然雲雀も目を瞬かせていたが、それより両肩を掴まれ鬼気迫る表情を見せられた、ユーリの方がポカンとしていた。え、何コレ。開いた口がそう言いたげだ。

「君は、ユーリ・テンペスタ――」
「エッ、あ、ハイ。確かに、そうですけど」
「なぜここにいる、いや……それより君、無事だったの」
「えっ、ちょっとまっ、俺としてはなんで名前知られてるのかそっちの方が気になって、」
「なんで、って」

 ここで、アラウディが眉をひそめた。
 呆然とする2人の前で、何を言っているのとでも言いたげに、彼は首を微かに傾ける。



「君は、僕の目の前で死んだんじゃないか。……――ユーリ・テンペスタ」



 ゆらり、紫の炎が揺れた。





「……えーーーーー?!俺死んで、」
「うるさい黙れ死ね、状況把握をしてから口を開け」
「うわいって!トンファーまじかてぇ!」

 硬直してから一秒後、学校中に響き渡りそうな音量で叫び出した彼の頭を遠慮なく殴る。
 初めてまともに当たった一発だったが、雲雀としては何も嬉しくなかった。

「いやいやだって!」
「何」

 頭を押さえ、涙目で振り返ったユーリが口を開く。

「俺死んでるって言われたんだぞ!んな平然としてられっか!」
「ならその足りない頭で考えろ、君は今呼吸してるし体はあるし、少なくとも五体満足、怪我もない」
「……へ」
「つまり、どこに君が死んでいる要素があるの」

 だいたい、君が死人ならこの並中に転入できるワケがないでしょ。そう言って雲雀が睨みつければ、数秒ぽかん、と間抜け顔を晒していた相手は、へにゃりと相好を崩した。
「あ、そっか。……俺生きてたわ」
「むしろ一回死ねば?……で」
 冷たく言い放ち、雲雀はくるっと横を向く。


「……あなたの言う、ユーリ・テンペスタは、誰?」


 背後、音もなく佇むアイスブルーの瞳は、薄く煌めいた。





「……僕の勘違いだったようだ」
「それはもう間違いないね。で、」

 あなたの言うユーリ・テンペスタは、誰なの。
 冷静な瞳で見つめる雲雀に、無表情に戻ったアラウディはしばらく沈黙していた。
 だが、そのままふとユーリの方へ視線を戻し、微かに息を吐く。
 その瞳に一瞬、確かに痛ましい感情がよぎったのを、雲雀は見逃さなかった。

「……僕の時代の知り合いでね。君達には関係ない」
「え、いやいや関係ないことないでしょ。名前までおんなじって」
「ふうん。それなら帰りなよ、僕もあなたに会う気分じゃないし」
「えっ雲雀!」

 ユーリが抗議するようにこちらを見たが、雲雀は完全に無視をした。

「……そうだね。そうしよう」
「懸命だね。早く帰って」
「え、嘘まじで?」

 俺アラウディにすごく興味があったんだけど、残念そうな顔でそうぼやくユーリをスルーして、雲雀はアラウディをじっと見つめる。
 こちらを見もせず、一瞬で炎の中へ消え去ったアラウディは、だが最後にチラリと視線を向けた。
 ――腕を組んでぶつぶつ呟く、ユーリの方を。


 一体、どういうことなのか。
 しばらく、輝きの失せたリングと不満げに口をとがらす転校生を交互に見やり――雲雀は、意味不明だねと一言小さく呟いた。





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