図らずも邂逅
■ ■ ■
「えっなに?!何が起きた今?!」
「……黙ってくれない」
はあ、と本日何回目かもわからないため息をつき、日誌を閉じる。
そのまま、紫の炎をあげるリングを空にかざせば――その内から、ふいに一際大きい炎が応接室へと降り立った。
「え?!何コレ手品」「黙れって言っただろ」
煩く騒ぐ相手を一蹴。もちろん投げたトンファーはよけられた。
最高潮に苛立ちを込めた目を雲雀が向けるその先で――床に降り立った炎の内から、ひとつの人影が姿を成す。
光る銀髪、涼やかな薄い青の瞳に、奇妙な服装。
自分に似ている、と沢田が評する――初代雲の守護者、アラウディだった。
*「また来たの」
「たまには様子見てやらないとね」
どうでもよさげな雲雀の問いに、相手もまた興味もなさそうに淡々と答える。
実体のない半透明のその身体は、ゆらりと揺れてまた元の形を成していく――射し込む日光を反射することもないその銀髪は、そよとも揺れはしなかったが。
継承とやらは終わり、あの未来とも完全に別れを告げ、もう二度と会うことはないと思っていたのに―― 一体どういう風の吹き回しか、「守護者の監視も自分の役目」と至極面倒くさそうに言った相手は、ここ数週間、雲雀の前にこうして気紛れに姿を現す。
最悪な組み合わせだ、と雲雀はうんざりした目付きで眼前に並ぶ2人を眺めた。
一方は目を白黒させ、ぽかんと隣を見つめる間抜け顔の転校生。もう一方には平然と佇み腕組みをする銀髪の青年。今更ながら雲雀以外の存在がこの場にいることに気が付いたのか、その水色の瞳がすっと横へ向けられる。
最悪な組み合わせだ、と再度雲雀は思った。
ここ何日間か、このろくでもない2人に邪魔をされていたものの、両人がそろうことは今の今まで一度もなかった――おそらく奇跡的に。
だが現在、応接室の机に座り込む雲雀の前には、面倒の塊みたいな人間が2人。
一体これはどう対処するべきか、と雲雀はこめかみを押さえた。両方とも綺麗さっぱり咬み殺せたなら文句は無いのだが、片方は戦闘意欲がないしもう片方はこっちが萎える。
だが雲雀が悩んでいたのはそこまでで、次の瞬間には、全く別の出来事に大きく目を見開くはめになった――そう、アラウディが「……君は」と驚いた顔で隣を凝視する、その時まで。