獣に似た独占欲
■ ■ ■
話が終わる頃には、あたりは薄暗くなっていた。
そより、開いた窓から差し込む風は冷たい。だが雲雀は窓を閉めるために動こうとはしなかった。
「……ふうん。それで、あなたの昔話と彼が、どう関係してくるの」
「あの子はユーリ・テンペスタの生まれ変わりだ」
危うく、学ランが肩からずり落ちるところだった。
「……は?あなた何を、」
「一目見てわかった」
机の向こう、淡々と述べる相手を見る。
だが、アラウディの表情は至って真顔だった。つまり、いつもと何も変わらない。
いつもと何も変わらぬ、冷静な声音で―ー彼は、生まれ変わりだとかいう戯言を口にしているのだ。
「僕がこの時代に、リングの中の残滓だとしてもこうして蘇えることができたのも、彼の名前があの頃と変わらないのも、この時のためだと思えば辻褄が合う。……ねえ、あの子は彼の生まれ変わりなんだよ」
だから、ねえ雲雀恭弥。
あの子は、僕がもらうよ。
「ふざけないで」
「!」
鋭い金属音が響いた。硬質な無機物がぶつかり合う、鼓膜に突き刺さる音。
眉をひそめたアラウディの前、弾かれ距離を取った雲雀が、にやりと笑った。
「初めて、武器を出したね」
「……。」
眉根を寄せたままのアラウディの手に、音もなく握られるは鈍色の手錠。
「……ねえ、雲雀恭弥。君は、あの子の事を疎ましく思っているんじゃないの」
「そうだよ。最高にうっとうしい」
「ならいいじゃない。どうして欲しがるの」
「欲しがってなんかないよ。あんなのいらない」
「ならなぜ、」
再び、金属の交わる音。響く高音。
交えた武器の向こう側で、アラウディの目が鋭く細く煌めいた。
「――君は、僕を攻撃しているの」
「知らないよ」
距離を取る。
応接室は狭い。闘うには良くない場所だ。
雲雀は息を整えながらトンファーを構え直した。暗い応接室に、2つの炎が煌めく。
「ただ、不快なんだ。あなたにあげる、って思うと」
「それはただの所有欲だ。浅ましい」
「浅ましい?何を、」
偉そうに。そう言いかけた瞬間、両手が痺れるほどの衝撃が来た。
くっ、と顔をゆがめ、雲雀は両手で体の前を庇う。防御の姿勢を保つ。
だが、その踵は無情にもズルズルと後ろへ下がっていった。
アラウディは無表情のまま、その手錠から放つ炎の勢いだけで雲雀のトンファーを圧迫する。
「……君に何がわかるの」
「……ッ、?」
「君に、」
あの子を失ったことのない君に、何がわかるの。
吐き捨てるように綴られた言葉は、
押し寄せる紫の猛火とともに轟音に散った。
* わかるわけがない、と雲雀は思った。
アラウディは、自分がまだ失っていないと言った。それは確かにそうだ、自分は何も失っていない。失うつもりもない。
だから、わかるはずなんてないのだ――彼が最後に青い瞳をゆがめて吐いた、その言葉の真意なんて。
未だ、この胸をくすぶる感情の正体すらわかっていない自分には、とても。