踏み超えてはいけない線
■ ■ ■
花は、季節を終えると枯れ、消えていく。
けれど今はまだ、そんな心配当分しなくてよさそうだった。
「〜ふふん、ふん〜…♪、ふふ…」
無意識のうちに、鼻歌が出る。歌ってしまう。
銀色に光るジョウロを傾けて、そういえばこれ、恭弥のトンファーに色が似ているかもしれない、なんて思った。
眩しいほどに暖かい日光が降り注ぐ先で、英斗はたくさんの花に水をやる。
恭弥は今日も家にいない。任務に出掛けていった。
今回は特別面倒らしい。沢田綱吉も本当に人の使い方が上手くなったものだと、恭弥が褒めているのかけなしているのか、いまいちわかりにくい口調でこぼしていた。
パシャン。ジョウロが空になったところで、ふと思う。
そういえば俺は、仕事しなくていいんだっけ。
そこで、あれ、と思った。
そうだ。仕事。
恭弥ばっかり働かせるわけにはいかない。そう思って、違和感を覚えた。
首をひねり、ますます強くなる違和感に、きょとんとする。
違う、そうじゃない。何かおかしい。
え、おかしいって、何が。
何かが間違っているような気がした。何かが外れてしまっているような気もした。
そうだ、「仕事しなくちゃ」じゃない。そんなわけない。
ーーだって、俺も「仕事していた」はずだったんだから。
「そこまでですよ」
不意に、声が響いた。
引っ張られるようにして、声の方を振り返る。
「それ以上、思い出してはいけません」
目につく、紫色。さんさんと白い光が降り注ぐ中、ぽっかりどこか浮いた色。
なぜか、妙に険しい顔をしてーーなのに、どこか悲しそうな瞳をして。
自称、優秀な死神ーー六道骸が、こちらを見ていた。
「……『契約』を、反故にしたくなければ」
カラン、と足元に、空っぽのジョウロが転がった。