お願いだから君だけは
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恭弥が他の人間にどう受け入れられているのか、そこは英斗にもわからなかった。
だが「戻ってきた」恭弥は、以前と変わらず仕事に行くし、知人と連絡も取っている。
ツナを始めとする、ボンゴレメンバーとはもちろんだったが、(自称)恭弥の師匠である跳ね馬やヴァリアー、炎真達ともそれなりに連絡を取り交わしているらしい。
もっとも、その大部分が向こうからであって、さらになおかつ仕事絡みでしかないのは、やはり恭弥らしいと言えば恭弥らしい事だったが。
あの、いわく「優秀な死神」が万事上手に取り計らっているのか、というより十中八九それしかないだろうが、恭弥は何も不審がられることなく、元の居場所へ身をとどめているようだった。
否、違う。
元々、そう、はなから「そうだった」のだ。
恭弥が一度いなくなってしまったことなど、そんなこと初めからなかったのだ。
真実を知っているのは、英斗、だけ。
「……英斗?」
不思議そうに恭弥に呼ばれて、はっとする。
顔を上げれば、不意に体に重みがかかった。同時に、左肩に埋まる頭。
「どうしたの」
驚きながらも、肩に埋まる恭弥の頭を撫でる。
指通りの良い髪の毛は、さらさらと英斗の指をすり抜けていった。
あったかい。
恭弥に寄りかかられながら、そう思った。
温かい。生きている人間の、温度。
「……別に」
耳元、くぐもって聞こえる恭弥の声。
肩に押し付けた唇が動くから、英斗はくすぐったくて思わず肩をすくめた。
「珍しいね」
恭弥は、自分からめったに触れてこない。
珍しいこともあるもんだと、ちょっと嬉しくて恥ずかしくて、英斗はごまかすようにそう笑った。
すると、なぜか恭弥が顔を上げた。急な動きに、髪の毛を梳いていた手が空を切り、滑り落ちる。
「……英斗」
体が、離れる。
気が付けば、恭弥に肩を掴まれていた。顎をとらえられる。
「最近、……たまらなくなるんだ。不意に」
恭弥の顔が、こちらを覗き込む。黒い瞳は、艶やかに光っている。
まるで濡れているみたいだった。
「……お願いだから。……いなくならないで、英斗」
そう言って、恭弥は唇を重ねた。
肌に爪が食い込むほど強く、顎を捉えた指先。
まるで、英斗が絶対に動けないようにと、例え拒まれたとしても離さないとでも言うかのような。
そんな、どこか強引で切実さの滲むキスはーー初めてのこと、だった。