あなたの、君のいない今日は | ナノ



叶うはずもない望み

■ ■ ■


 まっしろ、だった。
 何を言われたのか、何を言っているのかわからなくてーーただ、白。

「……なにを、」
 いって、と言いかけた声は、自分でも聞き取りづらいほどかすれて、震えていた。
 テーブルに置いたままの手が、同じくカタカタと震えている。


「……だから、こう言ったのですよ。君の愛しい人ーー雲雀恭弥を、生き返らせてはみませんか、と」


 相も変わらず六道骸は、平然とした態度でカップに口づけ中身を啜る。
 もう半分以上机の上にこぼれてしまっただろうに、まるで何事も無かったかのように彼はコーヒーを飲み下した。

 なにを。いったい馬鹿な。そんなこと。
 身体中を、言葉がぐるぐると回る。飛び跳ねる。
 心臓は痛いほどどくどくと脈打っているのに、頭の芯は冷え切って、どこか冷たくこの場を傍観しきってしまっていた。

「……雲雀恭弥、3ヶ月前に致命傷を負い、それがもとでこの世を去った。実に悲しいことですねえ」

 言葉とは全く裏腹に、男は平気そうにまたもコーヒーを一口啜る。
 息を吸い、吐いた。呼吸することすら忘れていたのだ。
 開いた唇が震えていたが、それでも言葉を発することはやめられなかった。

「……恭弥は……雲雀恭弥は、死んだ」
「ええ」

 静かに相手は肯定する。
 パンジーの花のような色の頭が頷くのを、ただ見ていた。

「恭弥は……恭弥は、もう帰らない」
「ええ」

 語尾が、震える。全身が冷えていくと同時に、火照っていくなんていう、ありえない感覚。

「……それを」
 顔を上げる。こちらをじっと見る濃い色の瞳を、腹に力を込めて睨みつけた。


「……それを、生き返らせられるって、言うの」


 六道骸は、静かに首を振った。


「……ええ。……君が、お望みとあらば。小野英斗」


 どこか悲しげに、哀れむような表情でーー言ったのだった。




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