やって来た男
■ ■ ■
「……〜♪、ふ、♪……〜」
鼻歌交じりに、水を少し。
ブリキのジョウロは、わずかに傾けるだけで、透明な雫を花々に散らしてくれる。
「〜♪、ふん〜……♪」
ぴたり、手を止める。
顔を上げれば、ジョウロから零れた水跡が、地面の上に黒い染みを作ったのが見えた。
「……だれ」
ジョウロにはかまわずに、口を開く。
目の前、咲き乱れる花々の間、通路の真ん中にーー
1人の、男が立っていた。
「……初めまして、小野英斗」
男は、ニコリと笑った。
奇妙な、紫色の頭をしていた。
「……なぜ俺の名前を知っているの」
「単刀直入ですねえ」
「俺に、何の用?」
「いえいえ、まあちょっとーー」
そこで言葉を一度切り、
眩い日光に白く満ち溢れる前庭に全く似つかわしくない雰囲気で、男は暗く笑ってみせた。
「君の愛しい人ーー雲雀恭弥について、少し」
風が、悪戯に花々の花弁を散らしていった。