あなたの、君のいない今日は | ナノ



絶対的な間違い

■ ■ ■


 雲雀の目が、信じられないという色に満ちた。
 英斗はぎゅっと手で空を握りしめ、唇を結ぶ。
 体の震えはいつの間にか消えていたけれど、その代わりのように心臓あたりから何かがこみ上げてきた。ーー叫びたい。

 だめだった。言った言葉を今すぐに撤回してしまいたいと思った。
 口にした端から、なんで言ってしまったのかと、自分の内で責める声がする。
 同時にこみ上げる、吐き気と涙。泣きたい。
 今この場で狂ってしまいたいと思った。そう、もういっそ。

 ーーこのまま、恭弥を失うのなら、いっそ。


「違う……!!」


 目を、しばたく。
 手荒く引き寄せられた肩に、震える爪先が食い込んだ。
 恭弥の――恭弥の、腕。

「……え?」
「違う……違うんだ、英斗……」

 呆然と、耳元で掠れた声を聞く。
 それは聞き慣れた恭弥の声のはずだったのに、なぜかひどく不思議な感覚がした。
 微かに掠れた、低く震える――耳を打つ、痛い声。

 抱きしめられたまま、英斗はただただ空を見ていた。
 薄水色の空――さっきまで、雲雀が立っていた地点。

 両肩を抱くのは、恭弥の腕だった。
 背中を引き寄せるのも、恭弥の温かい手のひらだった。
 なのに――なのに、なぜか自分の感覚が遠い。

 まるで、全ての感覚が失われていくかのように。

「違うんだ、英斗……」

 どうしてだろうか。わからない。
 ただ強く抱きしめる恭弥の腕だけが、全ての感覚を繋ぎ止めていた。



「……生き返らせたのは、僕だ。英斗」




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