あなたの、君のいない今日は | ナノ



決別の時

■ ■ ■


 違う、と英斗は首を振った。違う、そうじゃないーー自分は、恭弥に言わなければいけないことがあったのだ。そうだ。
 深呼吸をする。自分の心を、自分の事を忘れようと務める。違和感と、息をみ込む。

「英斗……?」
「恭弥」

 顔を、上げる。なんとか息を整える。
 言わなければ。恭弥に、伝えなくては。


『……君の愛しい人を、生き返らせてはみませんか?』


 ーーあの日、自分が選択した先は……果たして、正しかったのかどうかを。


「恭弥」
 英斗がもう一度名を呼べば、雲雀の表情が固まった。
 どこか、なぜか泣きそうにーー瞳が、歪む。

「英斗……?」
「恭弥、」


 好きだった。大好きだった。
 どうしようもなく好きだった。だから一緒になった。愛していた。あの時間を、日々を。


『……君のせいでキッチンが大惨事なんだけど』
『英斗、今日の水やりは?』
『今朝の料理当番君でしょ、ちょっと』
『そう言いながら寝るな馬鹿』


 ーーそれでも多分、間違いだったのだ。

 だって、自分の知る恭弥は、


『……いなくならないで』
『僕が好きなら、それでいいから』
『すごく、綺麗だよ。……英斗』


 ーーそんなこと、口にする事など、けして。



「ごめん」



 短い、端的な英斗の言葉に、雲雀はただ目を見開いた。
 傍らを風が通り抜けていく。何もいつもと変わらぬかのように、ただ悪戯に気紛れに。
 何もーーそう、変わらない物なんて、何もありはしないのに。

 
「……俺が、恭弥を苦しめた」



 あなたに、いて欲しいと望んだから。
 もう一度傍にいて欲しいと、そう望んでしまった、から。





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