気が付いてしまうその前に
■ ■ ■
好きだった。
ずっと恭弥が好きで、好きで、大好きで仕方なかった。
だから、そう、だから。
一歩、また一歩と足を進める。
体は重たかったが、もう後戻りはできないと英斗は思った。
扉を開け、その向こうへ、光のあふれる前庭へ足を踏み出す。
−−恭弥の、いる場所へ。
目覚めれば、恭弥は隣にいなかった。
最近は珍しいことでもなかった。恭弥は最近、オフだと前庭へ行くことが多い。
そこで、英斗の育てた花の中に立っているのだ。
特にこれということもなくーーただ、どこか楽しげな笑みをうっすら浮かべて。
「……あれ。英斗」
眩しい日光が包む花畑の中、恭弥がくるっと振り返る。
その口元に浮かべられた笑みを見て、自分をまっすぐ見つめる瞳を見返して、
−−胸が、痛くなった。
「今日はいつもより早いじゃないか」
言いながら、恭弥がこちらへ歩いてくる。花をよけ、光の中から自分のもとへ進んでくる。
不意に、泣きたくなった。
「……恭弥」
「……?英斗、どうかしたの」
途端、雲雀の目が訝しげな物に変わる。
雲雀は自分の内心に敏感だった。聡いのだ。なんだって、すぐばれてしまう。
そう、そうだった。任務で怪我をしても嫌な殺しをして来ても、戸口でなんとか取り繕った英斗の笑みを、雲雀は一瞬で見抜いてしまうのだった。いつもそうだった。
え?
「……英斗?」
雲雀の顔付きが変わる。戸惑いから、どこか鋭い何かを孕んだものへと変化する。
何かーー不安、困惑。揺れ。
「……あ、れ」
ーー何か、おかしい。
勝手に震え始める指先を、どうしようもできず英斗は目を開く。体がわななく。
そうだ、何かがおかしかった。何がおかしいかもわからずに、英斗は思う。冷や汗が背中をつたう。
そうだーー今、自分は何と思った?
任務で怪我をしても、嫌な殺しをして来ても。
ーー任務?殺し?
なんだ、それは、だって。一体。
ーー仕事?
「……英斗?」
恭弥の声が聞こえる。震える自分の肩を掴む手の平を感じる。暖かい温度。確かなぬくもり。
ーーじゃあ、自分は?