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よく戦闘をするようになった、というよりわめく彼を無理やり屋上やらグラウンドやらに引っ張っては武器を突きつけるようになった。
相手もそのうち諦めたらしい。数ヶ月後には、こちらが誘えばしぶしぶながらも銃を出すようになっていた。
当然、自然と名前も覚える。
燈夜。彼の名前は日野燈夜。
聞けば中学は別の街だった。かなり遠い。
不思議に思って問うてみたところ、彼はなぜか困ったように笑った。
『並盛高校、奨学金制度あるから』
『…?へえ』
『俺がいけるレベルで、奨学金あるとこってここが1番近かったんだ』
だから、ここに来た。
『…ふうん』
『うっわ興味なさそー』
自分で聞いといてそれかよ、と肩をすくめる燈夜に、雲雀は軽い気持ちで問いかけた。
『何、君お金に困ってるの』
別にそんなことどうでもよかった。
ただなんとなく、ふと思ってしまったから聞いただけで。
『……まあ』
苦笑のような、どこか奇妙な笑みで彼は言った。
『…俺の妹、入院してんだよ。ずっと』
緩く日々は過ぎていった。
夏休みには、なぜかずいぶん親しくなっていた。
『夏と言えば海ー!!』
『そうだね。じゃあほら銃出しなよ』
『なんっで手合わせ前提なんだよバカやろぉお』
叫び、燈夜がゴーグルを掛ける。
『海だぞ海!!泳ぐに決まってんだろーが!』
『…水中戦?』
『し、ま、せ、ん!』
ぜってーやんねー!と叫び、彼は裸の背中を見せ砂浜を駆け出した。
白い砂地が目に眩しい。まあ仕方ないかな、と遠ざかる背中に口角が上がった。
あれ、とその時思った。
なぜ自分は、彼と海に来ているんだろう。
誘ったのはどっちだったか。妙にあいまいな記憶にぼんやりする。どうだったっけ。
『…雲雀!』
突然名前を呼ばれる。顔を上げた。
『何着替えもしないでぼーっとしてんだよ!早く着替えて泳げよお前も』
『…水中戦?』
『だからしねぇよ!!』
やはり、わからない。
海なんてどちらから誘ったのか、どうして互いに行く気になったのか、2人でその後どうしたのかー。
わからない、思い出せない、
「恭弥」
突然名前を呼ばれた。顔を上げる。
けれど呼ばれたのは記憶の中と違い、名字でなくて名前だった。
「…海、君から誘ってきたんだったね」
燈夜の口が動く前に、そう言う。
遮るつもりではなかった。どこか思考がぼんやりとしていた。
それでも銃を握る手が緩むことなどないのだから、やはり己はマフィアなのだ。
彼が一度は拒み、しかし入ることを決めたーマフィア。ボンゴレファミリー。