終わり良ければ全てよし?
どこか空っぽな思いで、傾き倒れる背中を見つめていた。
さぞ虚ろな目をしていただろう。
それこそ、この男と何度も行った任務の真っ最中の時のような、
「……リューマ」
両膝を付いたレイトが、こちらを見上げて笑っていた。
その口端から血が溢れ出るのを目に入れて、ああやっぱり急所を刺してたんだな、とどこか遠くで場違いな確認をする。
自分でやったくせに、自分自身に絶望した。
一度記憶を消しても尚、とっさに急所を狙う事のできる己の手腕に。
「……わかってた、ことだ、ろ……」
喘ぎ混じりに倒れ込む、元相方の姿を何の感慨も抱かず目で追う。
今更ながら、自分が血塗れのナイフを握っていることに気が付いた。いつの間に拾っていたのだろう。それすら、覚えがない。
「オレ、と、お前……どちらかが、かならず……どち、らか、を……」
どさり。足先に伝わってきた震動で、レイトが地面に転がった事を知る。
見下ろした先で、広がりゆく血だまりと痙攣する体を無感情に見つめて、
何年か前と同じ、冷えた感覚が体中を支配するのを感じながら、
「――無事でしたか悠馬くんっ!!」
「ぐえへぶっ」
いきなり目の前が大きくブレた。同時に体のありとあらゆるところに衝撃を受ける。
「、は、いや、えてか何、」
「そこを退きなよ南国果実咬み殺す」
「ぐえへごっ」
目の前がチカチカする。今度は骸が人間の出す声とは思えない声音を出し横へとブレた。瞬間的にその姿が視界から消える。
「ハ、いや一体何がどう、」
「無事かい悠馬」
「え、――雲雀せんぱ、」
「よし無事そうだね、咬み殺す」
「なぜ!!」
驚きのあまりクエスチョンマークすら消えた。無事=咬み殺すという驚きの等式である。
「迷惑かけたんだから当然でしょ?あと、コレは並盛病院に放り込む必要がありそうだしね」
「え……」
フン、と鼻を鳴らしつつ雲雀が言う。コレ、と嫌そうな顔で見下したのは動かないレイトの体だった。
「……でも、そいつは」
「何?君にこれ以上罪を背負わせるワケにはいかないでしょ」
この元お仲間を見捨てたいって君が言うなら別にいいけど。
あっさりした物言いに、一瞬思考が飛んだ。それから、思わず前へ踏み込む。
「ちょっ、……え、なんで知って、」
「ここに来るまでに、大体の事情は赤ん坊から聞いたよ」
そういえば途中で置いてきちゃった。君のせいだからね、悠馬。
よどみなく続けられる言葉に一気に体が弛緩する。じゃあここに来た時には、彼らは何もかも知っていたのか。ていうか、
「悠馬君!!今度こそ君を抱きしめ、」
「うっ」
ドガッという音が体内で響く。今確実に骸の腕がわき腹に入った。
「……ってエッ?!君が僕の抱擁を受け入れるなんて、……遂に心を開いてくれたんですね悠馬君!!」
「避けれなかっただけなんですけど今すぐ放れろ骸先輩」
今の自分にそんな余力はない、と呻いて悠馬は額をたたく。誰のかといえばそれはもちろん、頭を首にすり寄せてくる馬鹿なテンションの先輩のを、だ。
実際ほんとに体力が無い。というか待て待て、この先輩方はなぜこうも通常テンションなのか。もっとこう、何か疑いの目とか疑問とか、
「とりあえず僕は連絡する。君と六道は見つかると厄介だからどっか消えてて」
「は?え、……連絡?」
いきなり普通に携帯を耳に当てた雲雀に心底引く。ツッコミどころ満載のセリフだったが、とりあえず最重要事項だけ恐る恐る聞き返した。
「病院だよ。瀕死の男を運ばなきゃね」
けろりと雲雀が言い放つ。その体中にいくつもの怪我を負っておいて、表情は腰抜けするほどいつも通りだった。
後ろでは骸が何やらはぁはぁ言っている。待て、こいつもこいつで何をしている。
あれコレ、シリアスな場面じゃなかったっけ。
動かない元相方、手から滑り落ちる血塗れのナイフ、前と後ろで安定した態度の先輩。
思わず頭を抱えたくなったが、それより早く瞼が熱くなった。
「えっ?……悠馬君、き、君泣いてるんでブフォ」
「とりあえずあんたはさっさとどいてください骸先輩」
ひときわ大きな殴打音が、すっかり夜へと染まりつつある星空に響いた。