選んだ最後
「……くだらないね」
吐き捨てた雲雀が右手を振るう。だが高い金属音に阻まれた。
「はっ、死ねよ」
「ッ」
苛立だしげに口元が歪む。片手のトンファーを弾かれた雲雀は、勢いを殺せず後ろへ飛んだ。
「っ、歪んでますねぇ、君も大方!!」
「甘い」
後ろに下がった雲雀の代わりのように、骸がすかさず前へ出る。だがレイトは嗤っただけだった。
「?!」
「オレが使えんのはナイフだけだと思ったか?」
匣だって、持ってるに決まってんだろ。
ぽーん、と空を立方体が飛ぶ。
一瞬動きを止めた骸の前、それはまるでおもちゃのように地面へ落ちて、
「――死ねよ」
爆風。
脳を直接揺さぶる激音。
――あっさりと、爆発した。
「……、……」
こめかみを押さえ、よろよろと立ち上がる。鼓膜をやられたのか、喉が震えた感覚はあるのに自分の声が聞こえなかった。
「……匣っていうか、……ただの爆弾だろ、もう」
数秒遅れて、声が耳に届く。自分の声なのに奇妙な感覚だった。
目の前が白く霞んで見えない。始めは目もやられたのかと思ったが、すぐに煙だと気が付いた。白煙が霧のごとく立ち込めている。
「ひば、せんぱ……」
名前を呼びかけて、気が付いた。
煙の中、うっすら浮かび上がる背中、――レイトの背。
レイト。
何も考えず名前を口にしかけたところで、彼の足元によこたわる、黒い見慣れた色がチラリと見えた。
は。
総毛立つ。一瞬、磔にされたかのように全身が痺れた。
目を見開く。中途半端に口を開いたまま、喘ぐように息をした。
――雲雀先輩、骸せんぱ、……。
「……、……」
薄れゆく煙の中、レイトが何か呟く声が確かに聞こえた。
まるで祈りのように静かな声音に、血の気が引く。ここまで来ておいて、ありえないほどのその穏やかさに、逆に全身が冷えた。悟る。
先輩たちが”殺される”。
「……ダメだ」
真っ白なまま、呟く。レイトが右手を振り上げるのが見えた。
その足元、倒れた先輩方はピクリともしない。白煙が生き物のように蠢いては薄れていく。
――お前と、もう一度いっしょになりたいと思ってた。
明言し、うっすら笑んだレイトの横顔を思い出す。
震える手で胸元を掴んだ。
振り下がる右腕が目に映る。
殺さなかったのはなぜだ?
殺すなという命令を
お偉方を説得したのは
お前ともう一度
「……俺は」
――是非、殺してみてよ。オレの事。
そう言い笑ったレイトの顔が、浮かんだ。
「……お前とは、違う……!」
赤い血しぶきが、飛んだ。