ルームメイト!
「めでたしめでたし、だな」
「何ちょっと良い話にしようとしてんですか嘘ですよねこのエセベイビー」
ジャキッ。
「終わり良ければすべて良しデス間違いアリマセンリボーンさん」
「よしさすが次期マフィアボスだ」
とんでもない言いがかりを満足げに告げられた。嘘だ。
悠馬はため息をつきつつ肘をつく。頬を乗せて外を見れば、それこそ嘘みたいに澄んだ青空がよく見えた。
とっても綺麗だ。目の前にいる腹黒赤ん坊とはおおよそ対極的な、
「死にたいのか」
「待ってタンマタンマ今俺絶対黙ってた」
こめかみに突き付けられる最終警告。ちなみに銃口の冷たさを頭皮で実感するのはこれで人生2回目である。多分そんな奴自分以外にそうそういないと思う。
「でも良かったな。レイトは一命をとりとめたらしいし」
「……そういう情報、どこで手に入れてくるんですかリボーンさん」
「熟練のヒットマンなめんなよ」
ニヒルな笑み付きで返された。似合うところがもう怖い。
そこらの主婦が見たら絶叫するレベルには怖い。多分誰もが自分の子には近づけまいとするはずだ。間違いなく。
「……で、あなたが俺の部屋に普通にいる件については」
「熟練のヒットマンなめんなよ」
「それ万能な切り返しとかじゃないですからね」
何でもそれで切り抜ければいいってもんではないだろう。
もう一度深々とため息をついた悠馬の前、机の上に立ったリボーンが口を開く。
「でも安心したぞ。お前が並盛高校にとどまるって聞いて」
「……高校はこのまま通います。ヤコブとはとりあえず膠着状態ってカンジなんで、」
「どうするつもりだ?」
「卒業したら継ぎます」
リボーンの目が見開かれる。初めてこの赤ん坊が動揺するところを見た。
これは貴重だ。文化遺産が足並みそろえて自分の前に突如並び始めたくらいのレアシーンだ。
「……一度記憶を消してまで抜け出したのに、か?」
「ツナを見習ってみようかと」
「お前のとこはボンゴレほど寛容じゃねーぞ」
「そんなの俺が1番わかってますよ……」
そもそも所属してたのは自分だし、と呟き悠馬は右手でペンをクルクル回した。
机を陣取るリボーンの足下には、まっさらな紙が広がっている。
「……上が何と言うかはわかんないですけど、……俺なりに、変えていきます」
「……。」
「俺の望む、マフィアの姿に」
「……前途多難だな」
可愛らしい声で紡がれる四字熟語に、なんとなく笑う。
本当に、前途多難だ。一度は無理やり抜け出したファミリー、眠ったままの元相方、戻った記憶に予想のひとつもできない未来。そして、自分の無謀な試み。
笑い事じゃない。なのに、こうも気分が晴れ晴れとしているのは、
「……あ、そろそろ行った方がいいですよ。リボーンさん」
「あ?」
「煩い方々が来るんで」
ガタリ。椅子から立ちあがって、伸びをひとつ。
廊下からバタバタと音がする。この騒がしい足音は骸だろう。下駄箱を確認して自分がいるとわかれば、文字通り飛んでくるのだ。犬か。
「……悠馬」
「え?」
名前を呼ばれて振り向く。予想外だった。てっきりもう行ったものだとばかり思っていたのに。
「良かったな」
振り返った先、窓枠に乗った赤ん坊が、温かな目でこちらを見ていた。
言葉も無く見つめ返す。
後ろで、また足音が一段と大きくなった。
あと3秒。
「……はい」
打撃音と叫び声。どうやら煩いのがもう1人増えてしまったらしい。きっとどちらが先にドアを開けるかでもめているのだろう。
あと2秒。
「良かった、です」
柄にもない事言ってんな。ふと掠めた考えに、口元が緩む。
あと1秒。
「――あの先輩達が、ルームメイトで」
「〜〜悠馬くんっ!!君、早く帰るならそうと、」
「煩い六道そこをどけ」
「煩いのは先輩方です、俺課題やろうとして、っ?!」
「お帰りのキスだよ。ほら君からも、」
「な、なにしてんですか雲雀君!!僕が先に決まって」「黙れ南国、咬み殺すよ」
「ひどくないですか南国扱い」「君なんてそれで充分さ」
「頼むから静かにしてくださいよ、御二方……」
……Fin.