真相の果て
「……さて」
ちょこちょこ、小さな足で道路を前へ前へと進みながら、帽子を被った赤ん坊が呟いた。
「名の馳せたヤコブファミリー、次期ボスにつぐ実力を持つ少年、レイト……」
もうとっくに日の落ちた薄青の空へと目をやって、リボーンは小さくひとりごちた。
「その凶悪さは折り紙付きだ。元相方への執着と激情が加われば、」
大きな黒い瞳が細くなる。その目元に影を落として、彼は小さく付け加えた。
「――あの2人でも、ちょっと危ういかもしんねーな」
「ッ!!」「骸先輩ッ!」
叫び、思わず立ち上がる。だがそれを手の一振りで諫めたのは雲雀だった。
「ちょっと六道、なに休んでるの。ぼさっとしすぎ」
「ちょっ……君、たった今もろ攻撃喰らった相手に、」
もうもうと煙の立ち込める中、咳込みつつ立ち上がった骸を雲雀が一瞥する。
ふいっと前を向き、何事もなかったかのようにトンファーをかまえる雲雀の姿に、今更ながら悠馬は呆れた。ほんとこの人、骸先輩の事嫌いだな。
「……ふうん。思ったより持ってんな」
ボソリ、聞こえた呟きに背筋が冷たくなる。首をひねれば、たった今の今骸をふっ飛ばしたレイトが、何の感情も浮かんでいない目でナイフの刃を眺めていた。
まるで調理でもするかのような事務的な目に、困惑を飛び越え恐怖する。
こいつ、全然「本気じゃない」。
「……でも、もう飽きた」
「?」
ボソボソと続けられる独り言に、トンファーをかまえたままで雲雀が眉をひそめる。
異様な雰囲気を感じ取ったのだろうか、その横で口元を拭った骸も真顔で身構えた。
「……レイト?」
「リューマ。これだけ長い間、お前を見つけられなかったのはなんでだと思う?」
は?
レイトの背中を見つめる。こちらに背を向け雲雀達と向かい合い、元相方は感情の読めない声で淡々と問いを重ねた。
「お前が殺されなかった理由は?お前が本当にヤコブの三大タブーを犯していなかったと言えるか?頭の固い上層部が問答無用で納得したと思ったか?」
「え、」
「今お前を先に殺さない理由はなんだと思う?」
矢継ぎ早に告げられる問いに頭が追いつかない。口を開き、悠馬はなんとか声を発した。
「レイト……何が言いたい?」
「お偉方を説得したのも、殺すなって命令浸透させたのもオレだ」
「レイト!」
「カンタンだよ」
骸の顔が歪むのが見えた。視界の端でも、その表情の変化は如実だった。
ゾクリ。2度目の悪寒が走る。
「――オレは、どこかでお前と、もう一度いっしょになれたらって思ってた」
狂気に近い。
レイトのねじれた笑みの向こう、目を伏せ唇だけで呻いた骸の言葉が、やけに強烈に鼓膜を揺さぶった。