Roommate! | ナノ
お迎え出迎え、反撃開始!

 目を、開けた。
 信じられない思いで、瞼を上げる。途端に明るい光が突き刺さった。反射でまた瞼が下りる。

 信じられなかった。
 
「……な、」
 頭上で唖然とした声が響く。紛れもなくレイトのものだ。
 だがそれはリューマも同じだった。というか自分が叫びたい。


「助けに来ましたよ悠馬く「咬み殺される準備はいいかい?」

 「ちょっ今君ワザと遮りましたよね?!」と叫ぶ紫頭に鼻を鳴らす黒髪少年、どちらもよく知っている人物の姿だ。だからこそ余計にわけがわからない。

「……え、……骸先輩、に、雲雀先輩……?」
「今この果実頭の名前を先に出した理由を言いなよ」
「そこ別にどうでもいいでしょう?!」

 思わず呟けば、なぜか瞬殺で不機嫌極まりない声が返って来た。
 というかそこか。銃を弾いて転がったトンファーを拾い上げる、雲雀の姿を凝視する。今回ばかりは骸の方が正論だ。

「……六道骸に、雲雀恭弥……リューマの周りをちょろちょろしてた奴等か」
「君もあの南国頭の名前を先に口にするの?不愉快だからやめてくれるかな」

 やっぱりそこなのか。どうしてそこなのか。
 ただでさえ混乱している頭が余計にこんがらがる。今自分が感じるべきなのは安堵か恐怖か驚愕なのかわからない。
 チッ、と低い舌打ちが聞こえた。上に跨っていたレイトがどき、離れた地に転がった銃をチラ見する。それから憎々しげに雲雀と骸を睨みつけた。

「……余計な事してくれる。ただでさえリューマの周りをうろついて、迷惑極まりなかったってのに」
「さっきからリューマリューマって、誰の事だい?」

 溢れ出る殺気をものともせず、雲雀がさらりと返答する。かまえた一対のトンファーが、夕日を浴びてぎらついていた。

「僕は悠馬を迎えに来ただけだ。咬み殺さなければならないからね」
「エッ待てなんで」

 地面に転がったまま素で声が出た。
 俺を助けに来たんじゃないのか。なぜ咬み殺される対象が自分なのだ、それって本末転倒じゃ、

「なんでって、君、僕に嘘ついたでしょ」

 けろっと横暴な先輩は言う。一瞬、ぽかんと口を開けて、それから何の事だか思い出した。
 寮に帰ると告げ、背を向けたあの瞬間を。

「雲雀君は薄情ですねぇ。僕はただ君を迎えに「思う存分咬み殺すからね」

 「さっきから人に被せてくるのやめてくれませんかね君?!」と骸は噛み付かんばかりだが、当の学ラン男は知らんふりである。いっそここまでくると清々しい。
 だがそこで、ゾクッと嫌な悪寒が走った。

「先輩!!」
「「!」」

 叫ぶと同時、2人が左右に分かれて飛びのく。その足元に、無数のナイフが突き刺さった。

「……いつまでも仲良しこよししてんなよ」
 ユラリ、地面を黒い影が這う。

「リューマ、そこで見てろよ。お前の大事な”センパイ”が、死ぬところを」
「!」

 肩越し、顔半分で振り返ったレイトが薄ら笑う。その横顔に浮かんだ殺意に、思わず息を呑んだ。硬直する。
 遠い記憶から、この男がマジギレした瞬間を思い出す。そうそうある事ではなかったが、だからこそ印象強く残っていた。
 本気でキレた時のレイトは、――それこそ。

「……だ、そうですよ。雲雀君」
「好き勝手言ってくれるね。僕を誰だと思ってるのかな」
「僕より身長マイナス10センチ(アバウト)の雲雀君、でしょう」
「君は絶対、咬み殺す」

 雲雀がゆっくり宣言する。重々しさが半端ではない。
 ありゃ本気だ、とぼうっと眺める自分の前で、2人の先輩方は何の前触れもなく武器をかまえた。さっきまで罵り合っていたのにいきなり息ぴったりだ。本当にわけがわからない。

「……お前ら2人とも、殺す」
「できるものなら」
「僕の悠馬君への愛を舐めてはいけませんよ」

 ユラリ、人間離れした動きでレイトがナイフを振り被る。
 雲雀は不敵に口角を上げ、笑んだ骸が決めゼリフには程遠い宣言を口にした。
 ただ見守る悠馬の前で、

 ――瞬間、激闘は始まった。


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