賽は投げられた!
「六道」
「ぶほぅ」
間抜けな声と同時に牛乳が口から飛び出した。雲雀が目に見えて嫌そうな顔をする。
「汚い死ねば?」
「い、いきなり人の目の前現れといてそれですか……!」
げほげほと咳込みながら骸はキッと睨み上げる。誰をかと言えば、自分の席の真ん前に現れた黒ずくめの少年を。
「行くよ六道。荷物は置いてけ、別に要らない」
「は?いえ、君突然何を――」
骸の横の席を陣取っていた犬と千種が目をぱちくりさせている。事態が呑み込めていないのだろう。だがそれは骸も同様だ。
突如教室に現れた雲雀に腕を引っ張られながら、骸は口元を拭いつつ立ち上がる。何がなんだかサッパリだし、そもそも零れた牛乳も放置である。
「ちょっ、ちょっと雲雀君、君教室違うしそもそも学年が別でしょう、あと吹っ飛んだ紙パックを放置するのは――」
「悠馬が危ない」
「は?」
思わず凝視する。ぐいぐい右腕を引っ張りながら、廊下を先行く雲雀の横顔は真顔だった。
「……あ、危ないって、それどういうことですか雲雀きょ」
「わからない。でもなんとなく昨日から思ってた」
悠馬、変わったって。
雲雀の漏らした呟きに、骸は眉を寄せつつ口を開く。
「……まあ確かに、昨日の彼は妙な事も口走ってましたし――」
「お、おめーらちょうどイイとこに」
「なんとなく様子が、――ってアルコバレーノ?!」「赤ん坊」
骸がぎょっと足を止めれば、雲雀がぱっと骸の腕を放ししゃがみ込む。その顔は非常にわかりにくいながらも緩んでいた。
相変わらずですねこの男も、と骸が引いた目で見下ろす先、雲雀の前で威厳たっぷりに立つのはボルサリーノの赤ん坊だった。通称リボーン、あるいはアルコバレーノ。
「やあ、久しぶりだね。でも生憎今は君と戦ってる場合じゃないんだ」
「その様子じゃおめーは勘付いてるみてぇだな、ヒバリ。安心したぞ」
「?何を、」
「片方はまだわかってねーみたいだけどな」
「この南国頭は鈍感なんだよ」
「雲雀君、君本当に辛辣ですね!!」
突然の連行といいこの発言といい、今日の雲雀はまた一段と横暴である。
「何言ってんの?辛辣なのは君の頭の中身でしょ」
「ま、今はヒバリの言う通りだな。そもそもオレはお前ら2人に報告があって来てやったんだぞ」
「ああそうですか……」
ご苦労様ですと頬を引き攣らす骸の前、リボーンの表情が不意に引き締まった。
「野々原悠馬、……いや、リューマが抗戦を始めた。ヤコブファミリーイチの暴れ馬、レイトとな」