こんばんは、クラスメイト、赤ちゃん
見間違いだと思った。
「……は?」
「リ、リボーン!!なんで出てくるんだよ!お前が出てきたら……」
「初めましてだな、野々原。悪いな、今回は俺の不出来な生徒が迷惑かけて」
「不出来って余計なおせ、あいたっ!」
「……ええと、最近の赤ん坊は発達が早いんだな」
足元、ちょこんと立つ小さな姿に膝を折り、視線を合わせる。
何か言いかけたツナをその小さな足が蹴り上げたのは見なかったことにして、悠馬は黒く大きな瞳をのぞき込んだ。
「しかし、お前マフィア向きな感じがぷんぷんするぞ。どっかのファミリーに入ってんのか?」
「……まふぃ?ふぁみりー?」
「だ、だからリボーン!またお前はそういうことを……!」
「俺はここの寮入るまでは、養護施設でお世話になってたけど」
「野々原くん?!なんでふつうに返事してんの?!」
「ちなみに小学校以前の記憶はなんでか無い。医者には問題ナシって言われた」
「しかもサラッと重たい過去を暴露してるー?!!」
なんでそんなに落ち着いてんのさ!!とツナがまたもや叫ぶが、悠馬としてはその声量の方が心配だった。就寝時間にはまだ遠いが、そのうち誰かに注意されるんじゃないか、この大声。
「記憶喪失か……なるほどな。お前のことは今度調べておくとして、取りあえず、前回の爆発に巻き込んじまって悪かったな」
「え……巻き込んだ?」
何やら前半に危なっかしい言葉が混じったのには無視して、悠馬はきょとんと首をかしげる。
「別に巻き込まれた覚えはないけど」
「いーや、お前んトコに問題児2人がいっただろう?シャマルから聞いたぞ」
「……え、あ、ああー……」
問題児2人――そのひとことから瞬時に理解できてしまうあたり、もう悲しい。
「雲雀先輩と六道先輩のことか」
「そーだ。謝りいけっつってんのに、このへなちょこ、その2人がいるからってずっとびびっててな」
「今晩はまだ先輩方帰ってきてないですよ。あとあの2人、わりと面白いからべつに、」
そう謝らなくても、
そう言いかけて、自分の言葉にハッとした。
え、面白い?いやそりゃ退屈ではないという意味では合っているかもしれないが、しかし面白くはないだろう。
2人して隙あらば部屋を破壊しかけ、1人はまとわりつき1人は武器を振るってきて、おまけに――
『僕は、本気で君のことが――』
『あの南国果実になびかないでよ』
「……あー……」
突然頭を抱えだした悠馬に、復活したツナは「?」と戸惑った目を向け、リボーンがにやりと笑う。
「そうか。……楽しそうで何よりだ」
「……え、いや別に、」
「それじゃあもう少し同居生活を楽しんでくれ。またな、野々原」
「えっ、リボーン?!ちょっと待てよお前、おい!」
颯爽と立ち去り出した赤ん坊を追いかけ、ツナが慌てた様子で走ってゆく。
その後ろ姿をぽかんと眺めながら、悠馬は信じられない気持ちでいた。
「……あんな威厳のある赤ん坊が存在したことにもビックリだけど、」
――わりと面白いかな、なんて。
「……毒されてんのかな……」
いや、それとも絆されているのか。
1人、部屋のドアに寄りかかり、悠馬は変化し始めた己の内心に気が付き――はあ、と深いため息をついた。