ヤバめな夜の始まり
「……だるい」
つぶやき、悠馬はペンを転がした。
ころころ、机を気ままに転がり安物のボールペンが床に落ちる。ため息をついてそれを拾う。
ああ、だるい。
一般的な高校生ならたいてい敬遠し忌み嫌うもの――つまるところ、課題。
そこは当然悠馬も変わりない。面倒な課題は大嫌いだ。
最近、ルームメイトが騒がしいのもあってなかなか手が付かないのもある。
今日は何の因果か2人とも夜になっても帰ってこない。もともと互いにスケジュールを把握しているわけではないので(骸なんかはしょっちゅう自分の予定を聞いてくるが)、まあそんな事もあるだろうかと悠馬は気にもとめていなかった、
のだが。
「……しずか……」
ぽつり、思わず本音が出てしまう。
毎夜毎夜、これでもかと言わんばかりに騒動を繰り広げるためすっかり忘れていたが、そうだ、寮の夜というものはこんなにも静かなものだったのだ。
あの2人がこの部屋に来るまでは当然だった事が、今となっては懐かしい。
「……まあ、悪くないんだけど」
つぶやき、悠馬は頬杖をついた。
そう、まあ、悪くない。
帰ってきた時に、部屋に誰かがいるというのは良いものだ、というのは最近悠馬が気が付いた事実だった。まあ、あの2人の前では口が裂けても言わないけど。
くるくる、手の内で回るペンをぼんやり眺め、その下のノートが埋まる予兆も無いのを見る。
ああこれはもうやめよう、と悠馬が立ち上がりかけた、その時――。
ガッシャン!!
「……え」
これはどっちだ、骸か雲雀か。
一瞬でそんな考えが思い浮かんだ、自分の思考回路がもう怖い。嫌だこんなの。
だが、同時に奇妙に思った――あの2人はしょっちゅう得物を振り回すけど、破壊に至るまでは滅多にない。そこらへんは良識がある(?)らしい。
ならば、いったい――。
「……いた」
ぽかん、と窓枠に乗る人物を見返す。
鈍い半月を背景に、真っ暗な空になじむようにして立つ相手。
その姿は、見慣れたあの2人のどちらでもなくって――。
「……リューマ、いた」
パリン、と。
ガラスの割れる音が、すぐ近くで、した。