Roommate! | ナノ
状況をリセットしたいのですが

 目が覚めたら、普通に服が着替えさせられていた。


「……は……」
「起きた?」
 耳元で聞こえた、無機質な声にぎょっとする。
 ぱっと首を回した悠馬の横、無表情でこちらを見る雲雀。
 黒い目はもう蕩けてはいなかったが、その下の頬は未だに赤かった。

「……ひ、ばり、」
「君って意外と精神脆いね。意識飛ばすとか」

 アッサリ言われてぽかんとする。ぽかんとし数秒かけて、やっと悠馬は状況を理解した。

「……な、精神脆いとかの話じゃ、」
「数回イかせただけだよ」
「平然と言うなこのあほ先輩ッ!」

 なんでこの人はこうも普通に言えるんだ。
 そもそも数回じゃなかった気がする。ぼやけた記憶を掘り起こしかけ、慌てて中断した。またも頬に血が上りそうになる。

「……ってか、あの」
「何」
「……離れてくれません」

 現在、ベッドに寝転がる自分の真横に雲雀の顔。無駄に整っているのが問題だ。
 ベッドも自分の服もきちんとしていたが、色々どうしたのだろうかとか考えたくもなかった。というより、この数十分間(多分)のことを消去したい。

「ヤダ」
「!」

 ぐっ、と頬に手をかけられ強引に動かされる。
 そのままあっさり唇を重ねられた。
「……っ、ふ、」
「……、ん」
 ちゅく、という艶かしい音がやけに響いて聞こえる。雲雀の肩を押すがすでに力が入らない。
 なんでこう腰砕けになってんだ自分、と悠馬は熱に溶ける頭でぼうっと思った。

「……はあ」
「はっ、はあ、はッ……」

 やっと唇が離された。濡れた感触が煩わしい。
 そのままぼんやり横で息を整える雲雀を見つめていれば、相手がこちらの視線に気がついた。
 目が合う。
 途端、にやりと雲雀が笑った。
 不覚にもその笑みに目を奪われる。くらりとくるような艶やかな笑い方だった。
「……なん、すか」
「ねえ、悠馬」

 ギシリ、ベッドが軋む。
 雲雀は膝をつき、こちらを見下ろした。

「……今日のとこは、精々このくらいにしておいてあげる」
「……は?」
「だから、」


 あの南国果実になびかないでよ。





 パタン、とドアが閉まる音は遠く聞こえた。
「……は?」
 数秒前と変わらない言葉を呟くが、現状把握には何の役にも立たなかった。
 口元を押さえる。ほんの少し前、重ねた雲雀の唇の感触がよみがえり思わず赤面した。


 あの南国果実に、なびかないでよ。


 どういう意味だ。
 そうだ、大体好き勝手にキスしてきて、しかもあんなこと――。
 思い出しかけてとっさに頭を抱える。
 全部夢だったらいいのだが、体は非常にだるく、なんというか特に腰のあたりがよろしくない。
 そして、それから。


『……悠馬……』

 蕩けた黒い瞳がささやいた、声の余韻が。


「……くっそ……」
 どうなっているんだ、俺のルームメイトは。
 口元を押さえ、悠馬は頬を染めたまま深々とため息をついた。


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