状況の把握は諦めました
「……今の、すごくそそる」
そう言った瞬間の、
口端をつり上げうっすら笑う、どこか嗜虐的な雲雀の笑みに――ゾクゾクと、体中が震えた。
「ねえ」
硬直している間に、のしかかる雲雀の低い囁きが耳元をくすぐる。
「っ、まっ、」
「待てない」
「あ、ん、ん……っ」
抗議した瞬間、耳をザラリと生ぬるい物が這った。
思わず肩が跳ね、自分でも信じられないほどの声が出た。ぞっとするほど甘い、かすれた声音。
「……っ、ほんとやめろ、馬鹿せんぱ、ひっ?!」
「……ほんと、どこまでも強気」
さっきの喘ぎの分を取り戻すかのごとく罵れば、またも耳を舐めあげる雲雀の舌。
ぢゅ、という音が耳の中から脳内に直接侵入し、悠馬はぎゅっと目を閉じ必死で唇を噛みしめた――うっかり気を抜くと、腹の底から這い上がる震えとともに、声が出てしまいそうだった。
「……っ、う、ん」
「我慢しなくていいのに」
「っ、ん、は、っ?!」
「なに?」
やっと耳から離れてくれたと思うと同時、カチャリと外されるベルトの気配。
しかし未だ目の前に雲雀の顔があるせいで、制止の行為が何ひとつできない。
「な、にしてるんすかあんた、はっ」
「脱がしてる」
「なんのためにだよっ」
「ほんっとうるさい。ちょっと黙れ」
「は、ふざけ、んんっ!」
信じられない信じられないありえない。
罵倒しまくるか非力な自分でも殴ればこの酔っぱらい先輩は目がさめるだろうか――そんな考えが頭の片隅を走馬灯のごとく駆け抜けていく。
だが実際は口内を這う雲雀の舌の動きに意識の大部分が持っていかれて、体はろくに言うことを聞かない。
舌を絡め取られ、強く吸われる。
途端、未知の感覚が全身をぞわぞわと駆けめぐった。自然と体温が上がる。体が熱い。
「……んっ、んん……」
雲雀の両手が頬を包むように挟む。
首を軽く傾けられ、さらに深く舌が侵入する。
思わず肩をすくめ、抵抗のつもりで薄目を開けた、その時。
「……!、ふ、」
ずる、と緩めたベルトごと下がおろされる気配がして、悠馬は大きく目を見開いた。
甘ったるいキスに熱を帯びた体に、途切れ途切れでしか働かない頭でそれでも思った、
こいつ、本当になんのつもりで、
「はあ、はっ、は、はあ」
「は、悠馬……」
舌が抜かれる。酸素が突然入ってくる。
顎を細い指で撫でられ、溢れた唾液をぬぐわれたことに気が付いた。
だがそちらに気を取られている間も無く、
「ひっ?!あ、ッ?!」
するりと侵入した手が、ズボンの下にゆるりと触れた。
「や、めろマジでっ、あ、う、ふあっ、」
「もっと、こえ、聞かせて」
「やっ、あ、ああっ、」
必死で手首を動かす。無意味にガチャガチャと金属音が響くだけだった。
雲雀の手が性器を握り、ゆるやかだった動きが囁きとともに一気に早くなる。思わずのけ反り喘いだ。口を押さえたいのに手が拘束されたままだ。
「っ、ひ、まっ、あッ、」
「ヤダ」
いくら相手が男だろうと先輩だろうと羞恥で死にそうでも、そんなところに触れられ煽られれば体は自然と反応する。
ただでさえ熱い体が疼く。ゾクゾクと全身が震えた。限界が近いのをぎゅっと目を閉じた中で察する。
必死でなんとか制止の声をあげたのに、低く濡れた拒否の声音が、耳をかすめて拒まれた。
「……っま、ほん、と、ひっ!い、ダメ、だって、……ッ!」
「イきたいならイきなよ」
「っ!あ、あああ、」
かろうじて残っていた何かが、ぶちぶちと千切れる。体中の熱に全てが飲み込まれる。
体の中心を上下する雲雀の手に再度背中がのけ反った。口が勝手に開き体裁も何もなく声が漏れる。
ゾクゾクと全身が粟立つ感触とともに、足元からまぎれもない快感が這い上がり腿が強張った。
「っあ、ぁ、!」
意識が上り詰める感覚と同時、性器から白濁が溢れた。イッた後の脱力感に体中が弛緩し、意識がゆらゆらとたゆたう。
「……っは、あ、ぁ……」
「……イッたね」
息を切らしながらゆっくり瞼を上げれば、ぼんやりと雲雀が手を舐めているのが見えた。
「……な、で、舐め、て……」
「なんか可愛くて」
脱力感と疲労に言葉はぶつぶつと途絶えがちだ。
しかし真上を覆う雲雀は余裕そのもので、頬を上気させたまま、こちらにぐっと顔を近づけてくる。
ぺろり。唇を舐められ、何か思う間も無く口を薄く開く。
舌を差し込まれた瞬間、無意識に迎え入れたことに気が付いたが、もう今さらどうでもいい気がした。
苦い味。
普段なら吐きそうな思いで拒絶のひとつでもしそうだが、なぜか今は雲雀の舌に自ら絡んでいて。
全身が熱い。皮膚がおかしい。雲雀の服が擦れた箇所すら、ぞくりと震え足が跳ねた。
「ん、う……」
「……ねえ、足りないでしょ?」
ぴちゃぴちゃと絡ませた舌を離し、雲雀が笑う。
滲んだ視界の中でも、ああ綺麗な笑みだな、とどこか現実と解離した考えが浮かんだ。
「……に、するん、ですか……」
「悠馬にもっとさっきの顔させる」
「……は……?さっき、って」
「死にそうなほど、気持ち良いって顔」
あと、声も。
付け加えられた言葉に、かあっと顔中が赤くなるのを自覚した――だって何言ってやがるこの先輩。
「……ふ、ざけ、」
「ねえ、もっと啼きなよ」
「あ、ま、てっ、て、ひうっ!」
ガチャガチャ、頭上の手錠が煩く鳴る。
性器を口に含んだ雲雀の舌が、ざらりと熱く這う感覚。膝が震えた。