Roommate! | ナノ
朝ごはんはいかがしますか

 ぱかり、卵をフライパンに落とす。
 最後にもうひとつ、と次の卵を手にしたところで、突如ぎゅうっと肩に重みが来た。
「なうっ、」
「ふわ……朝からなにしてんの、君……」
 ぎゅうう、と首に回された手に力が入る。
「っ、ちょっ、ぐえ、」
 首絞める気かこのやろう。
 慌てて首元の腕を引き剥がしにかかるが、これがまあうまくいかない。片手はいまだ卵で塞がれているし(置きたいのだがどこがシンクか見えない)、相手は寝起きのせいか手加減なしにぎゅうぎゅう絞めてくる。痛い。やばい。何って呼吸がやばい。
「ふわーあ……」
「っぷはっ、ちょっ、朝からなに人ころしかけてるんすか雲雀先輩」
「……ん?君が騒がしいから、でしょ……」
「寝覚め最悪なタイプですかあんた」
 いかにも寝起きです、というぼーっと顔で雲雀がこちらの肩に顎を乗せる。ぼうっと、といっても真顔に近いからわりと怖い。
「ちょっ、まじ離れてくれません?俺朝ごはん作ってるんで」
「朝ごはん……?」
 微妙に眉を寄せ、雲雀が不思議そうな声で聞く。
「朝ご飯なんて……食堂行けばいいじゃない……」
「朝の混み具合知らないんですか?俺いつも自分で朝はすませますよ」
「僕の周りは……静か……」
「ああなるほど好待遇ですね」
 おそらく誰も近寄らないのだろう。雲雀の周りだけモーセのごとく人が避け空白が広がるに違いない。なるほど。
「ねえ……それ何……」
「コレですか?目玉焼きですよ」
 他に何に見えるのか。
 フライパンの上、じゅうじゅうと音を立て焼きあがる2つの卵。
「ってかマジで離れてくれません?いい加減あつ、」
「ねむた……」
「いんすけど、ってちょっおい寝るな」
 人の肩に顎をのせたまま、雲雀は半分目を閉じうつらうつらし出す始末。これが並高中から恐れられる暴君の姿かと思うと、悠馬は呆れのため息しか出ない。
「身長差利用して人の肩にあごのっけないでください。ほらどいたどいた」
「んー……」
「んーじゃないっすよ、んーじゃ」
 どこが鬼の風紀委員長なのか。これでは子どもと変わりない。
「ほら起きて、」
「うるさいな…なら……こうする」
「は?」

 ずるずる、背中にも体がもたれかかってきて、
 ぎゅう、と腰を引き寄せる腕。

「……ちょっ、あんた何して、」
「あったか……抱きまくら…」
「俺ぬいぐるみじゃないんだけど」
 マジ離れろ、と腰に回った手を引き剥がしにかかる。かかる、が、ムダに力の強い雲雀の腕はぎゅうぎゅう張り付くだけで全く動かない。なんだこいつ。

「……っくそ、やりにくいったらない……」
 ぶつぶつ言いながらも、悠馬は諦めてこのまま料理を続行する事にした。
 背後に張り付く保育園児のような先輩は、首に頭をすり寄せ何ごとかつぶやく。

「えー?何ですか雲雀先輩ー?」
「……も、……」
「はい?」
 腰の雲雀に引っぱられつつ、おっと、と悠馬は目玉焼きを皿にすべり込ませた。
 肩の上、ついっと雲雀が顔を上げる気配。
 ん?と悠馬が顔を半分後ろに回せば、
 ふとかすれた声が耳元に届いた。



 ……こんなあさも、わるくないかもね。



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