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またも、こんにちは

■ ■ ■


「……じゃあ、お二人もこの並中に誘導されて?」
「ああ」
「誘導なんてされてないよ」
 俺は頷いた。肯定の意を表した俺の横で、しかし階段に腰掛けた雲雀はなぜかそう言う。
「売られたケンカは買う主義なんだ」
 ツナこと沢田綱吉がこちらを見た。
 何言ってるかわからないんですが。
 俺は無言で首を振った。末期患者に診断結果を告げるかのごとく。
「オレは、獄寺君とリボーンとはぐれちゃって……」
「赤ん坊がいるのかい?」
 雲雀が物楽しげに笑う。夜の階段に座っていなくてもぞっとする光景だ。
「え、ええ……でも、とりあえずいつまでもここにいるわけには、……いかない、ですよね」
 俺と同じ段に体操座りをしていたツナが立ち上がる。言葉は勇ましい。が、明らかに顔色は悪かった。

 2階へ続く階段。俺達はそこに腰掛けていた。俺と雲雀が真ん中、ツナは一段下。互いに見上げ見下ろしの関係。
 いわゆる、「情報交換」である。1人は空気読まずにふんぞり返っているが。
「ツナ、アテはあるのか」
「いえ……でも、閉じ込められたってことは、どこかに鍵が」
「「は?」」
 ツナがビクッとした。ぎくしゃくした動作でこちらを、そして上の段に座る雲雀を見る。
「……え、と。何か……」
「閉じ込められた、ってどういう」
「冗談にしちゃ笑えないね」
 咬み殺す、と確かに背後から聞こえた。
 一瞬、止めるかどうか本気で迷う。が、俺が決める前にツナが叫んだ。両手をブンブン降っている。
 おもちゃのサルを思い出した。延々とシンバルを叩くアレだ。
「まっ、待って下さい!し、知らなかったんですか?!」
「これは本気で笑えないな」
「咬み殺す」
「お、落ち着いてくださいって!!」
 全員必死だ。約1名はトンファーをかまえただけだが。
「おい雲雀、むしろ喜べよ。お前の大好きな並中に一生いられるんだぞ」
「殺す」
 ギラッと目が光る。俺は大人しく黙ることにした。
「な、なんでかはオレにもわからないんです!……ただ、昇降口から入ったら、急に扉が閉まって、カチャンって音が後ろでして……」
「ジ・エンド?」
「君は黙ってて」
 キツい声が突き刺さる。俺は今度こそ大人しく引き下がった。
「小動物、心当たりは」
「え?い、いやだからないって、」
「ないわけないだろ。だいたい厄介事持ち込むのは君なんだ」
 雲雀がむんずとツナの襟首を掴む。ライオンが子猫でも引っ張り上げてるみたいだ。
「え、……いやいや、ホントです、って!」
 ツナが横目で俺を見た。助けてください。
 俺はゆっくり微笑んだ。ごめんなさい。
「ひっ、……まっ、待ってください雲雀さんッ、いやマジでッ」
 俺には無理だ。下手に手突っ込んでケガをしたくない。
 静かに黙祷する俺の前、無益な暴力が今まさに振るわれようとした、
 その瞬間だった。


『……みぃ、ツケ、タ。』


 俺は目を開ける。雲雀がやけにゆっくり俺を見た。階段の下から、舐めるように。俺を。
 ツナが「ヒッ」と息を呑む。
 この時点でもう気が付いていた。いや、認めざるをえなくなった。雲雀は俺を見ていない、

 ――俺の「後ろ」を見ているんだ。

『……ミ、ツケ、タ』
 ふっと首筋に息がかかる。いやに生温い吐息だった。
 一瞬で総毛立つ。雲雀の瞳孔が開いた。ツナの顎が外れたかのように、かくんと下がる。
 俺は泳ぐ直前のように、息を大きく吸った。心臓が死にそうなほど早く脈打っている。
 ただ、ツナの方が俺より早かった。

「……で、でたあぁあぁぁあああああっ!!!」

 その絶叫を合図に、俺達は一斉に走り出した。




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