邂逅
■ ■ ■
「……お化けに物理攻撃ってきくのか」
「何言ってんの?」
んなわけないでしょ。トンファーがひゅっと空を切る。
雲雀はそのままトンファーをしまった。鮮やかに鈍色の凶器は姿を消す。
「は?いやだって今お前、」
「消えただけだよ」
は?
「……って、いま」
「手ごたえがなかった」
断言する雲雀の横顔を目で追う。雲雀は平然としていた。ここに足を踏み入れた時となんら変わりない顔だ。端的に神経を疑う。
雲雀が戸に指をかけると同時、俺は寒気を感じた。首をねじるようにして振り返る。
背後は静まり返っていた。机と椅子が並んでいる。そうあるのが当然のごとく。
ごくり。唾液を呑み込む。
少女は消えていた。
猛然と、それこそ獲物を仕留める肉食獣のごとく雲雀が飛びかかり、そして同時に銀のトンファーが振り落ちた。
一瞬だった。一瞬で、少女は消えた。ラスト、確かに甲高い悲鳴を残して。文字にするならおそらく、
「……きゃあ」
「は」
ぞっとした表情で振り返られた。雲雀の目が嫌悪に満ちている。
「何、今の声」
「いや、お前は血も涙もないなと思って」
「はあ?」
ガラガラと扉が横に滑る。入り口は難なく開いた。
鼻で雲雀は笑う。
「僕の並盛を汚す奴は皆敵だ」
なんだこいつは。
「……あのさ、お前歪んだ正義のヒーローみたいなこと言って――」
るぞ、と言う声に足音が被った。
ぱたぱたぱた。
え。
ぎょっとして足を止める。廊下を奥に進んでいた雲雀も立ち止まった。
一瞬、雲雀と目が合う。この時ばかりは互いに何を思ったか理解できた。
既視感。
「……次こそ、咬み殺す。いいね?」
「俺に聞くな」
できれば相手に聞いて欲しい。
そうこうしてるうちに足音が近付く。ぱたぱた、がバタバタ、に変わり、やがてこちらに近付く。ますます音が大きくなる。反響する。
「……雲雀、」
「何」
縦横無尽に足音が響く。俺はからからの唇を開いて言った。
「お前の大好きな並中さ、」
「うん」
「……お化けに全部のっとられたんじゃない」
雲雀が俺を見た。およそ状況にそぐわない感情がその目に浮かんでいる。
殺す。
「……やめとけ相手はもう死んでる」
「関係ないね、生きていようが死んでいまいが――」
「あっ、ヒバリさん?!」
ピタリ。俺と雲雀は口をつぐんだ。足音もぴたりと止んだ。
廊下の奥で、1人の少年がぜえはあ喘いでいた。折った膝に両手をついて、肩を大きく上下させている。
「……小動物」「ツナ」
呟いた雲雀が俺を見る。
俺は毅然とその目を見返した。何か文句でも。
雲雀の薄い唇が動いた。
――ビビリ。
「……スンマセンした」
穴があったら入りたい。
いやでも、この状況なら誰でもお化けだと思うだろ。普通。