夏の終わり
■ ■ ■
さあ、最低で最高なあの夏を、迎えに行こう。
ざあ、と木の葉がざわめいていく。
ユイは目を細め、顔を覆うように手のひらをかざし空を見た。
うっそうと茂る木々の間、差し込む日の光はひどく眩く強烈だった。
目もくらむような日光に蝉の音、閉じた瞼の裏を染める緑。
知識や理屈とかでなく、感覚が覚えている。
確実な、夏の終わりだった。
「……8月31日、か」
呟いて、ユイは苦笑する。
終わりだ。夏休みの終わり。
けれど――秋が始まる前に、自分には残されたものがある。
『この夏が終わったら、お前の存在は"無かったこと"になる』
一歩、踏み出す。
木立ちとは名ばかりの、森のように葉を茂らせ枝を伸ばす、この荒道の向こうへ。
さあ、最低で最高だったこの夏を、終わらせに行こう。