しょせんかたがき
■ ■ ■
「ヒバリー、ユイと別れたんだってー?」
「……君は自重とか遠慮ってものを知らないの?」
「や、遠回しな言葉とか、まどろっこしいのはヒバリも嫌だろ?」
平然とそう言って肩に腕を回す、山本武が最上級に鬱陶しい。
苛立ちを隠しもせずに勢いよく腕を振り払えば、相手は雲雀の鉄拳を受ける前にひょいと身を引いた。
「君に何の関係があるの」
「あるさー、やっと俺が手ぇ出せる」
ユイってヒバリ一直線だったからな。
そう言って笑う相手に、本気で殺意を覚えた。
一瞬でトンファーを閃かせる。
そのまま瞬時に相手の喉元へ武器を押し付けた。
「……殺すよ?」
「咬み殺す、じゃなくて殺す、なのな」
にこり、此の期に及んで笑みを浮かべる山本武の頬を、つうっとすべり落ちる一筋の汗。
当然だ。今の雲雀は本気で武器をかまえている。
「……そんな大事なのに、なんであっさり離れたんだよ」
「向こうが言ったんだ」
簡潔に告げる。
武器を突きつけ、相手の急所をいつでも抉り取る構えを取ったまま、いつもと変わりない声音で返す。否、返したつもりだった。
でもなぜか、胃がねじ切れるような感覚がした。
「……それで、いいのかよ」
黒い瞳が、すっと細まる。
人の良さそうな暖かな光は、今そこには一切浮かんでいなかった。
「……君に関係があるの」
「なら俺が狙うまでだ」
散る火花。
見えないはずのそれは確かに、光と熱と、互いの殺気を帯びていた。
「……やれるものならやってみなよ」
「俺だけじゃねーぜ」
首元から武器を離した雲雀に、山本が短く答える。
「は?」
「お前、今までちょっと甘く見てたろ。骸はまあわかりやすいけど、ボンゴレの部下の何人か……あと獄寺も、そして…何より、ツナが狙ってるからな」
「……は」
「お前の元恋人は、案外甘くないぜ」
鼓膜を突き刺すような言葉に、雲雀は黒い瞳を見つめ返す。
いつもは緩いその黒に、今気を抜けば飲み込まれそうな気がした。
「……ま、頑張ろーな。お互い」
通り過ぎざま、耳元を声が掠めた。
その声音はいつものバカ明るい彼のもので。
『――終わりに、しようか』
元恋人。
そうか、自分はもう恋人ではないのだと、雲雀は廊下に立ち尽くしたまま拳を握った。
もと、こいびと。
恋人ではないけれど、でも。
君の恋路を邪魔をする事に、そんな肩書きは必要かい。
なぜオッドアイにしたかだけが思い出せない。
題名が長い。総受けの予定でした。