Blood&Tears | ナノ
Heavy boy
目を開けると、消毒液の独特の匂いが鼻についた。
「…れ、」
「目ぇ覚めたか」
白い電気がまぶしくて目を細めると、さらにまばゆい銀色が視界を覆った。
「…ごく、でら?」
「ったく、10代目にご迷惑をおかけさせやがって」
「……ことば遣い、おかしいぞ」
「てめぇ…ぶっ倒れたばっかだっつのに口は健在だな」
いらただしげに口元をつり上げた獄寺に、瑠久は次第にはっきりし出した頭を起こした。
「…俺、どのくらい寝てた?」
「寝てた、じゃねーよ。お前が今朝10代目の前でぶっ倒れて保健室に運ばれてから、3時間だ」
3時間。
10代目がお前なんかのために心を痛めておられて本当に、とかあれこれ言葉を並べる獄寺を視界の端に追いやりながら、ぼんやりと瑠久は頭をめぐらした。

体調が悪いのはわかっていた。
学校に行こうと思う時点で吐き気がこみ上げた。
でも行かないのはまるで本当に拒否しているようで、だから…。

「おい、聞いてんのかてめ」
ぐるっ、あごを掴まれて唐突に向きを変えられる。
目の前、鼻先が触れ合う距離でこちらを睨んだ銀の瞳が、次の瞬間大きく見開かれた。
「…なっ、どうしたんだよ、」
「…は?」
「なんで泣いてやがんだ、お前」

は?

ぽろり、頬を濡らす感触。
馬鹿みたいにぽかんと目の前の銀色を見つめながら、ああまたか、と脳の片隅が冷静に呟いた。
またか。
きっと、俺はおかしくなってしまったんだ。
こんなに勝手に涙が出てくるなんて、しかも自分じゃどうにもできないなんてそんな馬鹿な事、
そうだ、俺はもうおかしくなってしまったんだ。

「…いっ!おい、瑠久!!」
頬をつねられ、我に返った。
そんなに強い力じゃなかったのに、なぜか一気に全身が冷えた。

「…獄寺…」
「てめえ、ひでぇ顔してんぞ」

ぎゅっ、と頬を両手ではさまれる。
むぐ、と声にならない声をあげた。
なにすんだ。
抗議の意を込めて相手を睨みあげれば、不安に揺らぐ銀の瞳孔がこちらを見ていた。

冷める。

頬をはさむ獄寺の手の低い温度ははっきり伝わってくるのに、
その上を流れ落ちる涙の筋は、やけどしそうな程熱かった。
「何があったんだよ、雲雀と」

ひばり。

聞こえた名前に、心臓がぐらりと揺れた。
「…なんで」
「わかるに決まってんじゃねえか。最近、てめぇと雲雀おかしいだろ」
10代目も心配しておられたんだぞ。獄寺が付け加える。
おかしい。
そっか、俺と恭弥はおかしいのか。

「…かんないんだ」
「は?」
「恭弥が、わかんないんだ」

ぽつり、ぽつり呟いた言葉は、
どこかひび割れて乾いていた。

そうだ、全部おかしいんだ。
恭弥も俺も、俺の心も、みんな。

「瑠久…」
「獄寺、俺どうしたらいいのかな…」

どうしたらいいんだろう。
馬鹿みたいにどうして、は繰り返せるのに、
肝心の解決法は欠片も浮かんでくることはない。

「…獄寺、」
「黙ってろ」

ふっと目の前が暗くなった。
顔を上げれば、すぐ鼻先で大きな銀色がまたたいた。
まるでまんまるの月みたいだ。


「…泣きたいなら、泣け」


いつかも、似たような言葉を聞いた気がする。
目を閉じ静かに流れる涙に身を任せれば、柔らかな感触が唇を塞いだ。



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