別れの裏側
笙悟やプリメーラ、正義とも別れを告げ、一行は空汰の家の前に集まっていた。
「もう行くんか」
「はい」
「嵐さんお元気で!俺あなたみたいな綺麗で美しくて、でもすんごく残念ながら人妻な美人さん、どこに行ったって忘れませんから!」
「……。」
「瑠依君、それ笙悟君相手にもやってたよねー」
ガシッと嵐の手を握り、ぶんぶんと上下に振る瑠依に、最早ツッコむ気力すらない黒鋼と笑顔のファイ。
その後ろ、ふらりと歩みを進めるサクラの顔を、肩に乗るモコナが心配そうにのぞき込んでいた。
「……サクラ姫、大丈夫?」
「あ、……瑠依、さん。ファイさんも」
「無理しちゃだめだよー」
嵐の手を放したかと思えば、途端にふらつくサクラを素早く支えに回る瑠依。
そのあまりの身のこなしに、黒鋼はただ額に手を当てていた。
「……ガキ、お前その素早さを別のとこで生かせ」
「何を失礼な!綺麗な美人女性とも握手したいけど可憐な少女がフラつくところも支えたい、こういう2つの欲望を全面的にかなえたい時こそ生かすしかないだろこのスピード!」
「お前に話しかけた俺が悪かった」
途端に返る無茶苦茶な反駁に、黒鋼は真顔でこめかみを押さえた。
ふんっと鼻息荒く口を曲げた瑠依は、ふと、首を回す。
微かに、苦笑。
そのまま、瑠依はサクラをファイに任せると、ひとっとびで駆け寄った。
黒鋼の横に立つ、茶髪の少年のもとへと。
「……やらなきゃならねぇことがあるんなら、前だけ見てろ」
「……はい」
「そーだぞ小狼、なんか辛いことあったら即刻俺に言えばいーから!」
「?!」
真剣な表情が一転、背後から突然瑠依に抱き着かれたことにより、小狼が困惑した顔をする。だが当の本人は構うことなく、小狼の背後でニッと無邪気な笑顔を見せた。
「……ガキ、お前は本当に空気読まねぇな」
「何が?俺が小狼大好きだって?知ってる知ってる!」
「あの、瑠依さん……首が苦しいんですが……」
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≪……!、……≫
≪、……≫
鏡の向こう、動く3人。
呆れ顔の男に、苦笑する茶髪の少年。
そして、朗らかな笑みを浮かべる、もう1人は。
「……邪魔をするつもりでしょうか」
「さあ。"アレ"の考えは時たま読めん」
無表情に見つめる女に、うっすら笑って答える男。
その手の内、揺れる黒い紋章の付いたグラス。
「"同じ"なのに、ですか?」
ちらり。
どこか確信に満ちたような瞳で、女は玉座に腰掛ける男へ視線をやる。
「……同じ、か」
対する男――飛王は、ただ口元だけを歪ませた。
不快そうに、不愉快そうに。
「所詮、"アレ"も失敗作だ」
言葉の向けられる先、鏡の向こう。
映るのは、紫の目を煌めかせる少年。
「……まあ良い」
グラスを揺らしながら、飛王は呟くように言った。
「……奴は、いつでも殺せるからな」