偽りのツバサ | ナノ
それは、ただの、独り言

「羽根はあの巧断の中って、アレにかよっ!?」 
「なるほど、人捜しに使ってもモコナが反応しないわけだ」
「巧断は憑いた相手を守る、だっけー?健気だよねえ」
「てめーは相変わらず、いまいち危機感ってものが感じられねぇな……」

 暴走する正義の巧断を前に、思い思いの言葉が飛び交う。
 そこへ、真剣な顔でひとり一歩を踏み出したのは、


「しゃーおらん」


 振り返る少年。
 強く瞬く琥珀の瞳。

「……瑠依さん」
「行く気?さすがにアレはデカすぎるって。小狼、死んじゃうよ?」
「ガキの言う通りだ。下手したら死ぬぞ」

 瑠依達の間から離れ1人歩みゆく小狼を前に、瑠依は朗らかに声を掛ける。
 場違いなほど明るいそれに、付け加えられた黒鋼の真剣な声音。真顔でじっと見つめるファイ。

 だが。


「死にません」


 きっぱりと、彼は言い放った。


「まだやらなきゃならないことがあるのに、死んだりしません」


 その傍らに、赤く燃え上がる巧断を引き連れて。


***




「……小狼君は強いねぇ。色んな意味で」
「心も身体も、あと見た目も色んな意味でほんとにイケメンで俺好みゲホっ」
「お前が口開くと本当にいろいろ台無しになるな……」

 見送る3人の前、炎を携え空を飛ぶ小狼。
 はたかれた瑠依はむう、と恨めしげな目付きで黒鋼を見上げたが、当の本人は当然ながら素知らぬふりだ。

「彼にどうして炎の巧断が憑いたのか、わかる気がする」

 ポツリ、呟かれたファイの言葉に、瑠依は表情を消して目だけを動かした。
 遠く、小狼を見送るファイの横顔は、どこか儚い。
 寂しげ、というのだろうか。微笑んでいるのに、なぜか妙に切なく見えた。

「……まー、ファイは謎めきまくってて今にもどっか飛んでっちゃいそーだから、鳥の巧断ってのもわかるとして、……黒はじゃあどーなんの」
「おいガキ、それどういう意味だ」
「どういうも何も、だって竜ってイメージ的に強いけどもっと繊細で神秘的で、イマイチ黒のノリにはー、っていててててッ!髪っ!髪がっ!!」
「てめーはほんっとに……!!」
「はーい黒りんストップ、それ以上やると瑠依君の髪が無くなっちゃうから」

 もつれ合う2人の間を(声だけで)仲裁し、それからファイはへらっとした笑みを瑠依へと向けた。

「それなら、瑠依君は今にも消えちゃいそう、ってトコかなー?」
「は?そりゃねーだろ」
「黒がひどい」
「んな四六時中美形だのなんだの口うるせー奴に、消えるもなんもあるかっての」

 呆れた調子で鼻を鳴らした黒鋼に、瑠依は「まあそれは認めるけど」とおかしそうに笑ってみせた。


「……それに俺はどっちかっていうと、消えそうっていうより消えたいって感じだしなあ」


 きょとり、首を回したファイが瑠依の方へと口を開く。

「?何か言ったー、瑠依君?」
「いんや何にも」

 へらり、ふやけた笑顔を返し、瑠依はそれきり口を閉ざした。


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