頭上、間一髪!
「危ない!!」
小狼の叫びが響き渡ると同時――黒鋼の姿が、一瞬で動いた。
え。
瑠依がとっさのことに固まった瞬間、グイッと力強い腕が肩を引き寄せ、
***
「……何やってんだ?プリメーラ」
「笙悟君!!」
頭上、遥か彼方で何やら聞き覚えのある声がしたが動けなかった。
ぱちぱち、瞬きを数回繰り返して、瑠依はやっとのことで口を開く。
「……あのー、さ。黒」
「……んだよ、無事か」
「そ、りゃ無事ですけど」
黒に庇ってもらったから当然だろ。
と、言いかけ瑠依は言葉を呑み込んだ。
パラパラ、破片と木屑が視界の端を落ちていく中で、もぞり、頭を抱える腕が動く。
(え、何、この状況……)
庇われるように黒鋼に体を抱きすくめられたまま、瑠依は完全に動けなくなっていた。
なんとか黒鋼の胸元から顔だけ出して、それからもう一度口を開く。
「……なに黒、コレ、もしかしてお誘い?」
「……は?」
「いや、こんな熱烈にハグかましてまで俺の事庇ってくれて、しかもオマケにさっきから全然放してくれないからこれはもしや、と――」
「死んでろ」
ゴン。最後まで言い終えるその前に、脳天に拳が直撃する。
いって、と頭を両腕で抱える瑠依を地面にぽいっと投げ捨てて、黒鋼はすたすた歩き出した。
「は、え、ちょっと待てよ黒、んな照れんなって、」「もっかい殴るぞてめー!」
殴られた箇所をさすりつつ声を掛ける瑠依の前、振り返った黒鋼が目を三角にして叫ぶ。
のしのしと小狼の方へ遠ざかる黒い背中を見やりつつ、ふっと瑠依は口角を上げた。
「……っていうか、庇われなくても俺よけれたんだけどなあ。しかも、庇われるほど大した破片ここまで来てないし……」
小さく、笑う。
それから、瑠依は前髪をぐしゃりとかき上げた。
「……お人好し、だなあ。黒は」
***
「行っちゃったねー、小狼君。んでもってかあっこいー」
「素直が取り柄のバカじゃあねぇようだ」
やって来た笙悟の申し出を受け、炎を身に纏いぶつかる少年を遠くに、黒髪と金髪は静かに言葉を交わす。
衝撃と爆音に震える前方、その後ろに佇む2人。
「そりゃ俺のマジかわ部門、」
「そいつはさっきも聞いた」
一瞬でげんなり顔になった黒鋼が、最後まで聞かずぶった切る。
背後、歩みを進めていた少年は、ええ、と頬をぷっくり膨らませた。
「あれー、瑠依君。どこ行ってたのー」
「黒の愛が重すぎて、ちょっとダウンしてたー」
「だっれが愛だ!!てめーは勝手な事ばっか言うんじゃねえ!」
「まったまたー。ハグまでした仲だっていうのに」
ウインクしつつ見上げる瑠依に、黒鋼がうっと一瞬詰まる。
2人をおかしそうに見守っていたファイは、予想外の黒鋼の反応に目を大きく見開いた。
「えっ?……ほんとなの黒ぴっぴ?」
「いや別に……って妙な名前で呼ぶんじゃねえ!!」
「いやー、なかなか強烈だったよ。黒が死んでも離さないって感じで」「口閉じてろこのアホガキが!!」
目の前、激突する炎と水の轟音にも負けないくらいの叫び声が響き渡る中、騒ぐ3人の足元に影が落ちる。
ん?と瑠依は眉を寄せ、それから妙な気配を感じて顔を上げた。
妙な――何か、無性に大きな。
真上、阪神城に手を掛けて――
巨大な『少年』が、3人の頭上に直立していた。
「「「……は?」」」