嘘とほんとはどこまでも廻り
シャク、と果肉をかじる小気味良い音が響く。
「……けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇ、オレたち」
「「リンゴおいしー」」
「お前ら、おんなじ顔してっぞ……」
しみじみとつぶやくファイの横、幸せそのものという顔でリンゴをほおばる瑠依とモコナに、黒鋼が呆れきった目を向けた。
「……そいえばまだ聞いてなかったねー。小狼君はどうやってあの次元の魔女のところへ来たのー?」
魔力とかないって言ったよね、と首を傾けるファイ。
「俺がいた国の神官様に送って頂いたんです」
「へえ、すごいねその神官さん。1人でも大変なのに2人も異世界へ同時に送るだなんて」
おおー、と目を見開くファイは、どうやらかなり驚いているらしい。
「黒りんはー?」
「っんでそこのガキといいお前らは変な呼び方すんだ……」
はあ、と息を吐いた黒鋼は何を思いだしたのか、次の瞬間ぐぐっと眉間に深いしわを寄せた。
「うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理やり!」
「あははー、悪いことして叱られたんだー?」
「欲に任せてあまたの女をはべらかすのは良くないぞー、黒!」
「うるせーっての!……て待て!てめえは何言ってやがる!」
「わかった!さてはあんまりにも綺麗すぎて宝物盗っちゃたんだろ!かつて俺がしかけたように!」
「んなわけあるかっての!しかもお前は何やらかしてんだよ!」
「計画立てたまでだって!実行には移してない!」
「そこ誇らしく宣言するとこじゃねーよ!」
「はーい待とうかー」
延々と続きそうな掛け合いに、ファイが華麗にストップをかけた。
「……てめえこそどーなんだ」
割り込んだファイに、黒鋼がぶすっとした表情を向ける。
「ん、オレー?オレは自分であそこに行ったんだよー」
「は?だったらあの魔女頼るこたぁねえじゃねーか。自分でなんとかできるだろ」
「無理だよー」
えへへ、と笑ったファイは、両手で頬杖を付き、
「オレの魔力総動員しても、1回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
息を吐くように、嘘を付いた。
(……は……?)
思わず瑠依は横を見上げる。
魔力を封じていた呪いの術印を侑子に渡した今、瑠依の体は、自然と隣に立つファイの魔力を検知していた。
つまり、それは。
彼の体に宿る膨大な魔力の量からして、明らかに大嘘であり。
(……1回、どころか下手したら数回は可能だろ)
以前感じた、「あの人」の呪いの感覚。
時たま作り物っぽく感じる、へらりとした笑顔。
この男、
何か、隠している。
感じた直感そのままに、眉をひそめた瑠依は口を開き――
刹那、
「……っ?!」
全身を貫いた痛みに、胸元を押さえ込んだ。