偽りのツバサ | ナノ
ごまかしはぐらかし、全ては秘密に

「……ッ?!」

 なん、だ。
 これは、
 いったい、

「……瑠依くんはー?」
「……あ、」
「どうやって魔女のとこにー……て、え?」

 こちらに首を回したファイの目が、大きく開かれる。

「瑠依くん?!」
「……あー、や、大丈夫」

 へらり、となんとか笑って胸元を押さえていた手を下ろす。
 そうか、人はごまかしたい時にこんな笑い方をするんだな。
 ふと脳裏を掠めたどうでもいい考えに、ファイの笑みの意味が今更ながらわかった気がした。

「は、どーしたんだガキ」
「瑠依、具合わるいのー?」
「え、瑠依さん、大丈夫ですか?!」
「あー……大丈夫。超元気。たぶん、リンゴが美味しすぎた、せい」

 あはは、と何でもないことのようにひらひらと手を振る。
 胸の奥、いまだずきずきと残る痛みに冷や汗が背中をつたったが、なんとか呼吸は整った。

(……『コレ』、)

 確実に。

(……あの人のしわざ、だな……)


 言うな、と。
 追及するな、と、
 つまりは、そういうことか。

 ふう、と息を吐き顔を上げる。
 こちらを見下ろす目、目、目。
 その中でも一際心配そうな茶色の目に、思わず瑠依の口元は苦笑に歪んだ。

「……瑠依さん、顔色が良くないです、」
「……あー、やっぱ大丈夫じゃないかも」
「えっ?!」

 途端、青ざめる小狼に、瑠依はなるたけ深刻そうな顔を作った。

「小狼、俺……」
「えっ、ど、どうしたんで、」
「もうダメかもしんない」
「え、ええっ?!」
「はあ?!」「へ?」

 後ろで黒鋼とファイも唖然とするのが見えたが、
 瑠依はかまわず小狼の腕を引き、上目遣いではっきり言った。


「小狼が、呼び捨てにしてくれないと……」


「「「は?」」」

 完全にほうける3人の前、
 瑠依はごくごく真剣に目の前の茶色い瞳を覗き込んだ。
「あと、ついでに敬語も取ってくれないと……きっと俺の心臓はショックのあまり停止ぐへっ?!」
「茶番もいい加減にしろてめぇ!!」

 ぽっかーんと口を開ける小狼の前、
 盛大に頭を殴った黒鋼と悲鳴をあげる瑠依、
 そして苦笑するファイの隣、瑠依さいこー!と楽しげに叫ぶモコナの声が、騒がしい阪神共和国をまた一段とうるさくさせた。



(……うまいことはぐらかされた、気がするなあ)

 その青い瞳を一瞬翳らせた、ファイの心中も喧騒に沈ませて。 


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