騒がしい始まり
『お前もしょせんウツシミだ』
暗い中、遠くから声が聞こえた。
やめろ。
耳を塞ぐ。
だが声は両手を伝い、鼓膜を震わし侵入する。
『意思など紛い物にしかすぎない。私の思う通りに動く駒の、ひとつだ』
ぼう、と浮かび上がる、黒い水槽。
暗い空間に浮かび上がるその中、目を閉じたゆたう、1人の少年。
そうだね、飛王。
たしかに俺はあなたの駒だ、でもね。
『……なら、この感情もツクリモノなのかな?』
ねえ、少年。
君を救い出したいというこの思いだけは、
でも確かに、本当なんだよ。
***
「瑠依ー!!」
「うわああ何これめっちゃかわいーっ!!!」
目を開ければかわいい怪獣のどアップ。
鼓膜をつんざく大声にも怯むことなく体を起こした瑠依は、ぎゅうっとモコナを抱きしめた。
「やだー!瑠依ったら積極的ー!」
「朝からこんなかわいい子にこんなかわいい起こし方されたら、そりゃ積極的にもな・り・ま・す、ところで君の名前は?」
「モコナー!」
「モコナね、一生忘れない」
「おはよー、寝起きからテンション高いねー、ええっと、君は……」
「瑠依ですよー、名乗ったじゃないですか、ファイさん。あ、あとおはようございます」
朗らかに金髪の彼を見返せば、澄み切った蒼眼がニコニコとこちらを映していた。
「げ、元気そう、ですね」
少女を胸に抱いたままの小狼が、びっくり顔(というより引き顔)でこちらを見る。
「うっわ君もすっごく可愛い!名前は?!」
「か、かわ……さ、さくらのことですか?」
「え?あ、その女の子?確かに彼女も超キュートだしデートに連れてきたいタイプだけど、今俺が言ったのは君のこと!」
「えぇええっ?!」
ま、ほんとは知ってるんだけどね、もう。
「お前は寝起きからうるせーよ!喋りすぎだ!」
鼓膜を震わす大声にぱっと振り返れば、
「黒!」
「黒鋼だ!」
おはようそしてありがと!と頭を下げる瑠依に、意味わかんねえとこで略すなあと何がありがとうだ褒めてねえ!と噛み付く黒鋼。
「さっき君が起きる前にあらためて自己紹介したんだけどねー、彼の名前は小狼君。で、君が瑠依君、だねー」
「ええその通りです。あなたはファイさん、でしょう?俺のストライクゾーンど真ん中なんで一瞬で覚えましたよ」
「あははー、瑠依君って面白いねえ」
「面白いで済むかよ……」
朗らかに笑うファイに、どこかげんなりした表情を見せる黒鋼。
「なあに黒、嫉妬?でも俺、黒みたいな美形も嫌いじゃないからぜひともご安心を!」
「誰が嫉妬だ!あと略すな!」
ぎゃあぎゃあ喚いていれば、次の瞬間ガタンッ!と引き戸が大きく開かれる音。
あわあわする小狼ともっともっとーっ!とはしゃぐモコナの前で、現れた黒髪の男はにっこりと人の良さそうな笑みを浮かべた。
「おお!目覚めたんか!」