覚悟を決めて
全ての駒は、今整った。
「……さて、シー……」
城の奥、玉座の間で。
「……もう、少しだね」
足を組み、悠々と王の座に腰を掛け、
「待っているよ」
ファントムは、うっすら笑った。
△▼
「……あ、あなたは、マジカル・ロウ?!」
感想その1:あの姫様が指差しをしている
その2:ヤバイあのチェス腕が人間じゃない(関節無視して曲がってんだけど)
その3:これは指差す仕方ない
安定してくだらない俺の思考の前、スノウ姫が信じられないと肩をわななかせる。おいおい、ちょっとタダ事じゃなくないかこの状況。
「どうしたんだ、スノウ姫?昔あのチェスからスノーマンもらったとか?」
「どんな因縁だよ!」
隙を逃さずギンタのツッコみ。ありがとうギンタ、それが無ければ俺滑ってた。
「んなフザケてる場合じゃねぇ!あいつは……!」
珍しくおっさんの顔がすごくヤバイ。どういう意味かと言えば口に葉巻が無い。これ一大事だ。多分本当にヤバイ。
「……あいつは……!!」
△▼
正直、目の周り真っ黒パンダもどきピエロ(付けたあだ名が長すぎた)の何がヤバいのかはよくわからない。魔力はそこそこだしアームを繰り出す動作に余念がないのはまあわかるけど、それにしたって激強なわけでも非道な行為をするわけでもない。それこそどこぞのヒステリックなとんがり頭みたいに。
ただ、引っかかることがただひとつ――。
「……おかしいぞ。スノウは今まで一度もあいつに直接攻撃していない!」
「同感。ちょっとおかしすぎる」
「オヤジ!スノウが戦いたくないってどういう意味?」
再三の俺達の問い掛けに、おっさんが険しい顔で答えた。
「スノウの小さい頃の……お守り役だったのさ、あの男は」
「心理的なモノか……」
「ナルホド」
自然、アルヴィスの顔も険しくなる。俺は頭をがしがしかいた。
「しくったな。俺が出とけばよかった」
「んな必要はねぇ」
ザッとアランが前に出る。何かと思えば開口一番、フィールドに木霊が響くレベルで隣の熱血漢は激励を飛ばしにかかった。嘘だろ。
「いい加減にしろスノウ!!てめえは戦う覚悟を決めたんじゃなかったのか!!?」
酷すぎる。
正直、最初にそう思った。いくらなんでも大国の姫様、覚悟って言ったって限度ってモンがあるだろ。それに彼女は優しすぎる。
だがそんな俺の心を見透かしたように、じろり、アランは見下ろしてきた。
「余計な口出しすんなよ、シー」
「……な、」
「言っただろうが。……てめーは無意味に精神成長しすぎてるがな、」
遠く――フィールドの真ん中で、澄んだ魔力が高まる気配。
「スノウや、ギンタ――アルヴィスにも」
弾ける、水の泡。輝く透明な雫。
「……腹決めなきゃいけねぇ時があるんだよ」
瞬間、
轟音と激流が、敵のガーディアンを飲み込んだ。