夢の世界に溺れる | ナノ
魔剣とお菓子と浄化願望
 色々問題は(主にあのクソ司令塔のせいで)あったものの、俺達は無事砂漠フィールドに降り立った。
 本当に、戦闘前から盛大に疲れさせてくれる奴だ。

「シー、大丈夫か?」
「ん、あー、大丈夫。心配かけたな、ギンタ」

 フィールドに着くなり、心配そうにこちらを見やるギンタに、俺は笑ってひらりと手を振る。なんか申し訳ないな、ほんと。
 まあほぼ100%、というより120%あのアホ白髪頭のせいなんだけど。

「やっぱ、ドロシーちゃんと交代しとくべきやったんとちゃう?」
「ハ?ごめんなんつったナナシいっぺん死ぬ?」

 笑顔で返したら、ナナシの口元が物凄く引き攣った。ゴメン、つい。

「……とりあえず、向こうが来るぞ」
 アルヴィスの一言に、俺達は一斉に向き直る。
 それと同時、


「――魔剣ダンダルシア。あそこにいるブサイクと私、どっちがイケてるぅ?」


 ……なんていうか、なかなか挑戦的なセリフが聞こえた。


△▼




「……温厚な私だって、怒るんだぞォーーっ!!」

 俺が今日心の底から学んだこと:女のコにブスは厳禁、死にたい奴だけが発しましょう

 っていうかそんなん当然か、と真顔で思う俺の横、スノウ姫のアイスドアースを次々と避けるチェスに「太っている割りに俊敏だな……」とアルヴィスが呟く。
 お前も意外とぐさっといくよな、結構紳士的な雰囲気してるのに。
 まあそのドSでクールなとこも好きだけど、とそこそこ危ない思考を巡らせ始めたところで、目の前を落下するスノーマン。お、いけた?

「やった!!」
「あの女、つぶれたか?!」
「……あー、」
「イヤ……」

 はしゃいだ横の2人組に、俺とアルヴィスが揃って微妙な声をあげる。
 と、真っ二つに割れるスノーマン。現れる女とバカでかい魔剣。
 うーん、さすがナイトに近いビショップかな。ちょっとやそっとではやられないらしい。あ、コレ体形の話とかじゃなくてね。

 が、ここでさらなる予想外が来た。

「あんたなんてェーこんなモンだしーっ」

 売り言葉の常套句みたいな言葉をかますチェスを見つつ、ふとジャックが振り返る。

「……今思ったんスけど、あのチェスとシーの口調って似てないッスか?」
「それぜってー褒めてないよなジャック」

 俺は頬を引き攣らせた。おいアルヴィス、お前隣で咳き込むんじゃねえよ。

「私のもっとスゴイ所見せるしーっ」
 そうこう馬鹿な茶番をやってる間にも、どんどん戦闘は展開していく。

「出てこいーっ」

 一気に練り上げられる魔力に、俺はおっと、と目を凝らした。
 さあて、ナイトに近いチェス、一体何を出してくる?


「……おかしの家ーーっ。」


△▼




 予想外すぎた。

 というよりこれほど、アーム名とその本体がまんま、ってのを見るのは久々だった。
 なるほど、確かにお菓子の家だ。合ってる、間違いじゃない。うん、良い。だがしかし、

「……バ、バトル中に食事?!っていうかアレ、何の属性アームなの?!」

 そうだな、バトル中におやつタイム、ってのはなかなかマナー違反だと思うんだ、俺も。

 何がどうマナー違反なのかは置いといて、俺はうーむと腕組みをする。
 隣の方、観戦するナナシが引き気味で「……アルちゃん、シーちゃん、気のせいか?」と口を開いた。

「気のせいじゃないね」
 アルヴィスが淡々と返し、目を細める。

「あのエモキスとかいう女……体がふくらんでいる」

 やばいな、なかなかえぐい眺めだ。
 俺は膨らみつつある相手から目を離し、対峙するスノウ姫へ首を回した。

 なんか、できることならこう、綺麗に浄化して欲しいよな。
 俺の無茶苦茶で意味不明な無茶振りが届いたのかどうか、すっくと立ち上がったスノウ姫は、凛とした目で口を開いた。


「……カルデアで頂いたアームを使う時が――来たようだね」


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