夢の世界に溺れる | ナノ
ねじ曲がった道の最後は
「……お前」
「でも、驚きだなあ……てっきり、君はもう地下牢につながれてしまったものだと思っていたから」

 それが、ここの掟。そうでしょ?
 驚いたような、嬉しそうな顔をするファントムの言葉に、顎を引く。

「……突破してきた」
「へえ」

 周囲を取り囲むルークの群れは、今のところ動く予定はないらしい。じゃあ放置かな。
 よかった、俺は拳を握りしめる。
 無理やりあのダークネスアームを破壊してきた俺にとって、これ以上敵が増えるのは好ましくない。

「相変わらずだね、シー。キミはボクの予想を軽々と超えてくれる。……とはいえ、その魔力の荒れ具合からして、キミも随分疲れてるようだね」
「余計なお世話だ」

 そんなことは、自分が1番よくわかっている。
 ツインキラーを発動させ、俺は赤い瞳孔を睨めあげた。

 だって、仕方ないじゃないか。
 この非常事態に、アルヴィス達はアームを与えるとか言われて強引に連れていかれてしまったのだから。
 動けるのは――俺しか、いない。

「……ファントムの魔力を感じ取らなければ、大人しく牢の中にいたんだけどねぇ」
「それはボクの元へと来たかったってこと?」
「は? 何それ。自己陶酔も甚だしいね」

 笑みの形に細まる瞳に、わざと素っ気なく言葉を放つ。
 ああ嫌だ――本当に、嫌だ。
 この笑い、目、魔力のさざめき方――全て、全て。

 俺と、同じ。

「……ねえ、シー」
 笑っていないのに笑んでいる口、狂気と歓喜を宿す瞳、愉しげにざわめく魔力の波。
 俺に向かって、伸ばされる右手。


「……ボクの元に、おいでよ」


 だから、嫌なんだ。
 こいつは、こうも大嫌いで大嫌いで仕方ない、おそらく俺が最も忌み嫌い憎んでいる、この自分という存在に――あまりにも、よく似すぎているから。


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