夢の世界に溺れる | ナノ
欲しがりと憎みたがりと
 ボクといっしょに、この愚かな世界を浄化しないかい?

 ――もう一度。
 もう一度、あの手が伸ばされたなら、俺はどんな答えを返すのだろうと、ずっと思っていた。


△▼



「……君も今日、カルデアに来てたのかい?嬉しい偶然だよ、ギンタ……」

 はあはあと肩で息をする、ギンタへ向けてうっすら笑う――白髪の男。

「君がいるのなら――……あの子も、いるんでしょう?」

 この、因縁の地に。

「……あの子って、シーのことか?」
「うん」

 睨み上げるギンタの視線に、全く動じる様子もなく。
 うっとりと、どこか恍惚の色のチラつく笑みを浮かべた司令塔は、言葉を紡ぐ。

「いるのなら、欲しいなあ……ねえ、ギンタ」

 君と戦った後に、


「……あの子を、ボクに頂戴?」

△▼


 強烈な爆発音。あまりの音に、一瞬足が止まった。
 思わず塞いでいた耳から手を離せば、あたり一面が余波に震動するのを感じる。

 嫌な、予感。
 なぜなら、この先に感じられるのは――あの男の魔力だけ、なのだから。


△▼



「……ッ、ギンタっ!!」

 白煙の中、浮かび上がる無数の影――その端。
 地に仰向けに倒れ込み、ピクリともしないその小柄な肢体に、俺は思わず叫んでいた。
 体が怠い。ダークネスアームの残滓が残る手足は、思うように動いてくれない、だけど。

「ギンタ、怪我は……」

 言いかけ、満身創痍のギンタの傍らに膝をついたところで――くっと唇を噛む。
 そのまま、俺は顔を上げた。
 すぐ隣、嫌という程に覚えのある魔力を伴った――そう、俺が大嫌いで仕方ない、そしておそらく生涯忘れ得ることのできないだろう相手、


「……やあ、シー」


 白髪、包帯、煌めく赤い目。
 そして――微かに浮かべられた、笑み。

「キミの方からボクの元へ来てくれるだなんて、……こんなに嬉しいことはないかな」


 ――ファントム。
 俺の唇から零れた名前を、たなびく白煙がゆっくりとさらっていった。


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