夢の世界に溺れる | ナノ
明かされた正体
「お前――"ロコ"じゃないな?」

 俺がそう吐き捨てた瞬間。
 目先の少女は、薄気味悪い低い笑い声をあげた。
 
「クックック……その通りだ、シティレイア」

 ぞわり。全身に鳥肌が立った。
 この、魔力――その量、質。
 明らかに、

「……ナイトクラス上位、ってとこかなぁ」

 呟いた瞬間、気管が焼けるような逆流する熱。
 ゲホッ、と咳き込めば、遠い地点から、シー、とひどく不安げな声が聞こえた。
 大丈夫だって、ギンタ。
 俺は雑だし適当だしわりと色々ヤバイけど、

「……会うのは初めてだな、シティレイア」
「そうだねぇ……ぜひ名前を聞かせてほしいな」
「私の名前はペタだ。ゾディアック作戦参謀……ファントムの側近だ」
「……うわぉ」

 思わず、舌なめずりをしたくなった。
 そう――俺は相手が強ければ強いほど、気分が高揚するタチなんだ。

△▼


「……で、そんなお偉いさんが俺に何の用かなあ?」
「さすがだな。本当はお前が動けない間にやっておきたいことがあったのだが……その怪我でもまだ体が動くか」
「残念ながら口も動くし魔力も達者。ごめんね、わりとタフなタイプで」
「ファントムが言った通りだ。あの方がなぜ気に入られるか、わからなくはない」
「それ前言撤回、」

 して、と言い切る前に、俺は一気に踏み込んだ。


 腹に受けた一撃は深い。だけど痛みは感じない。
 気分が良い時の感覚だ、覚えがある。
 魔力が急激に上昇しているのを肌で感じた。最高だ、欲を言えば時間が欲しい。
 もう少し――魔力を練り上げるための、時間を。

「ツインキラー」
「!」

 俺が突っ込むのを薄ら笑いで迎え待っていたペタが、突然のアーム発動に若干たじろぐ。ほんのちょっとだけど。さすが側近。

 ペタのギリ手前で発動させたのは、俺の両手にいい案配でフィットする長剣。
 2つのそれを(自分で言うのもなんだけど)器用に扱って、俺はペタへと斬りつけた。うっわ楽しい。
 ペタはさっきロコの姿で使っていた大鎌を使い、俺の攻撃をことごとくさばいていく。 さっすが参謀だ、負傷中とはいえ俺の攻撃を軽くいなすとは。

「……こんなものか?」
「まっさかあ」

 そう早まらないでくださいな。
 俺はにっこり笑って後方へ飛ぶ。距離を置く。

「何をするつもりだ?」
「さぁて」

 ペタはアームを発動させる素振りもない。ただ面白そうにこちらをじっと見ているだけだ。
 ……どうやら相当なめられているらしい。まあ、それもしょうがないか。

「一応自分の立場は理解してるつもりなんで、」

 俺は全力で人の良さそうな笑みを浮かべた。
 時間はかせげた。問題無い。


「そろそろ、終わらさせてもらいまーす」


 一瞬だけ、目を閉じて――俺は、手首のアームを発動させた。


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