夢の世界に溺れる | ナノ
騙し合い撃ち合いころしあい
 さて。
 勝負、あったかな。

「……ネイチャーアーム、"アイリスの花"」

 中指に光るリングをひとなで。よしよし、相変わらず激しい奴だ。
 俺が爆破させた大地は、俺の爪先ギリギリより向こうを半分くらい吹っ飛ばしていた。我ながらやりすぎた。ちょっと苛ついてたのもあるかもしれない。

 うーん、と呟いて、俺は足元のえぐれた地面の様子を見にしゃがみこむ。ネイチャーアームで爆発された氷の大地は、まるで階段みたいに一段低い地点まで削られていた。
 だが――そこに、血液はない。

「……そりゃ、手加減はしたけど」

 ギンタとの約束がある。殺す手前の威力で抑えた。
 けど、これは――。

「! シー!!」
「ッ?!」

 背後からの緊迫した声に、俺はとっさに振り返る。
 視界の端に捉えた影に、反射だけで反応して、


 どぐっ、

 
 と。
 確かに、そんなような音が、した。


△▼



「……げほっ……かは、ッ、」

 ベチャベチャと、耳障りな音を立てて広がる血溜まりに舌打ちする。否、したかったけどできなかった。
 腹を押さえ――地を蹴りさらに距離を取る。

「……くっそ……」

 やられた。
 幻覚使いでありながら、これは――致命的だ。

「お前……やりやがったな」

 距離をあけたその向こう――無表情に佇む、小さな姿を忌々しく睨む。
 くっそ、おまけに無傷かよ。最悪。
 本当に本当に、最悪だ。


「――お前、"ロコ"じゃないな?」


 俺が、吐き捨てるように言った瞬間――幼い少女の姿が、グニャリ、歪んだ。


- ナノ -