相手は決定した
聞き覚えのある音だった。
嫌という程に、聞き覚えのある――。
「ギャハハハハハハ!!!」
これでもかというほどに爆笑しているアグレッシブ、そして振り返った俺とナナシの前で、
ごとり、と落ちる虚ろな目の生首。
「……おいババア!! てめぇは自分の仲間も殺すのか?! それがチェスのやり方なのか?!」
「ハッキリ言って、さっきから不愉快なんだよね、あんた。そのデカイダミ声も姿形も、ムカつくったらありゃしない!」
「まったくじゃ、無礼極まりないわい。作法も知らぬ愚か者じゃ!」
遠くで口々になじる声が聞こえる。
けど俺は、目の前の頭にしか目がいかなかった。
相手側、ずいぶん遠くにあるのにやたら鮮明に見える、Mr.フックの生首――。
ああ、と。
思わず呟いた俺の顔を、誰かがぎょっと覗き込むのを感じた。
「……シーちゃん?」
「ああ……今、人をすごく殺したいーッ!!全員来いよォオコラァア!!」
「まっ、待ってくれよ姉ちゃん!」
絶叫する相手、抑える誰か。
ああ、ラプンツェル、だっけ?
……やだなあ、覚えちゃったよ、名前。
「ねえ」
コツ、と氷の大地につま先を付ける。
眼前、鼻先が触れ合いそうな距離。
最高に唖然とした、ラプンツェルの顔。
「……今すぐ、俺が、相手してあげるよ」
「ちょっ、ちょっとお待ちを……!」
「煩いなあ」
軽く手を薙ぐと、ビュッという音とともに氷の大地に亀裂が入る。
そのすぐ側、真っ青な顔をして立ち止まるポズン。
……あれ?おかしいな、俺いつの間にアーム発動させたんだっけ。まあいっか。
「……へ、え。お前が相手になるかい?クソガキ」
「うん、いいよ」
「えっ、ね、姉ちゃん!」
「そこのお前は黙ってて」
せっかく相手もやる気になってるんだ、余計な茶々入れないで欲しいなあ。
軽く笑めば傍らにいた……ええと、なんだっけ。確か、ラプンツェルの弟、とかいう彼はなぜか口を閉ざし、頬を引き攣らせた。あれ。
「……にしてもお前、いつの間に距離を詰めた?」
「えー?」
首をかしげ、俺は目の前の相手を見上げる。
「……さあ?」
「ふうん」
ラプンツェルが、うっすらと笑った。
「……なるほどね、コレがお気に入り、とやらかい? ちょうどいいよ……最近はつまらない奴らばっかりだったからねぇ」
フフン、と口角を上げるラプンツェルに、俺はにっこり笑顔を浮かべた。
「俺も嬉しいよ」
これほど血が踊るのは、いつ以来かな。
ああ、シャドーマン修業の時が絶頂期だったかも。
「こんな気分になったのは、久々なんだ」
グロテスクに猟奇的に、原型を留めないほど相手をぐちゃぐちゃにしたい、なんて。