夢の世界に溺れる | ナノ
氷上のコメディアンと魔女と俺
「寒いね寒いねェ! こういう時はどうすればいいんだい?!あっついーいモノを喰うのさ!!」
「勝手に食ってろ屑」
「お前達全員喰ってやるよぉお!! この美しいラプンツェル様がねェーッ!!!」
「その役立たずな目潰してやろうかくそ」
「シー、言葉が汚い」
「アッごめん、口に出てた?」
「そこのお前ェエーッ!! さっきから聞こえてんだよォーッ?!!」
「うっるさ……」

 げんなりとした俺の横、アルヴィスが呆れ切った顔で肩をすくめた。

 氷野が広がるフィールドの向こう、なかなかアグレッシブな髪型をしたチェスがギラギラした目で叫んでいる。だからうるさいって。なんで氷割れないんだあの声量で。

「ファントムのお気に入りだからって調子乗ってんじゃないよォ! このクソガキィ!!」

 俺の頭の中で、何かがブチ切れる音がした。

「よしアイツ殺す」
「シー、頼むから笑顔で言うな」

 アルヴィスがなだめるおかげでちょっとだけ気が落ち着いてくる。肩に置かれた手の重みと思いの外近い距離感に違う意味でどきっとするし。

「……シー、頼むから口を閉じろ」

 あっ、また俺ぜんぶ口に出てた?
 やらかしたなあ、とへらり笑う俺の前、またもアグレッシブ(と略させてもらう)が狂気的に叫ぶ。

「チビ!」

 怒りをあらわにするギンタ、

「不細工なロン毛!」

 がーんとショックを受けるナナシ、

「もう1人ブサイク!」

 むっと眉を寄せるアルヴィス、

「サル!」

 涙を流すジャックに、

「ブス!」

 すっと目を細めるドロシーに、

「クソガキ!」

 で、俺。

「ロン毛とクソガキだけは認めてやるけど、あとは納得いかない、かなー」
「ちょっと待ってシーちゃん! そこ認めるとこなん?!なあ?!」

 涙目で騒ぐナナシを横に、ギンタがドン引き顔で口を開いた。

「な、なんだ……あのドリル頭のおばさんは……」

 けっこうお前も言うよね、ギンタ。

「性格はヒステリックで好戦的な自己中、ですが……強い。それがナイトのラプンツェル様です」

 ポズンの言葉にへえ、と唇を舐める。
 ああそうだ、そーいえば俺2回出てもいいんだったよね。そうそう、魔力のコントロールがどうとか。
 まあ、どうでもよくなってきたかなあ。

「……シー」
「ドロシー」

 後ろから声を掛けられ振り向けば、妙に真剣な目をした魔女がいた。え、なに。

「……あんたすごい殺気立ってるわよ」
「え、」
 思わずドロシーを凝視した。うそ。
「あっれ……なんでわかった?」
 うまく抑えてたつもりだったんだけど。
「……わかるわよ」
 なぜかドロシーは、哀しそうに目を細めた。
 す、と俺の横を通り過ぎる、彼女。

「……私とあなたは、よく似ているもの」

 え。

 俺が我に返って振り向いた時には、ドロシーはギンタに抱きつきアタックをかましていた。そのままじゃんけんの輪へと飛び込みにかかる。
 先ほど見せた表情とは、全く異なる笑顔で。

「シー?」

 聞き慣れた声に、ぼんやりと目を向ける。

「どうしたんだ、珍しくほうけて」
「……あー……」

 輪になったメルの中、アルヴィスが眉をひそめこちらを見やる。ギンタが歯を見せて笑い、手を振った。

「早く来いよ、シー!」
「そないなとこずっとおったら凍りつくでー」
「……別にどこにいても凍りつくと思うんだけど」
「そやって言い返せるならだいじょーぶやな!」
 いかにも楽しげに笑うナナシの横、ドロシーが微かに笑みを浮かべた。

 私とあなたは、似ているから。

「……そりゃあ、まちがってるな」
「シー?」

 ギンタが不思議そうな顔をする。ジャックも首を傾けた。
 笑う。
 意識して、笑みを作る。

「悪い悪い、ギンタ確かにちっちゃいなーと思ってて!」
「チビ発言引っ張んなくていいっつーの!」

 ああ?!と噛み付いてくる金髪をくしゃくしゃにし、俺は輪の中に入り込んだ。
 何のためらいもなく、誰もが当たり前のように俺の分の位置を空け、受け入れる。
 こんな、嘘だらけな、俺を。


「「「「「「じゃーんけん、ぽんっ!」」」」」」


 ねえ、ドロシー。それは違うよ。
 だって、君は。

 人を手にかけながらも、涙を流す事が出来るんでしょう?


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