泣かないでお姫様
「……この場合、スノウのギブアップ、でいいか?」
「いいぞよ」
あれ、案外あっさり認めるんだなあ。俺なら間違いなく命狙うんだけど。
完全他人事で眺めながら、でもまさかほんとにスノウ姫に死んで欲しいと思ってる訳じゃないので、この場合は安心するトコなんだろう。うん、良かった良かった。
ギンタが座り込んだままのスノウ姫の肩に手を貸し助けているのを、俺は遠巻きに見つめる。明らかに異常な量の汗を流しぐったりするお姫様は、とっても辛そうだ。
「スノウは心身共に限界だ。しばらくは戦線から離脱させる」
アランの言葉に、スノウがうつむきギンタは唇を噛んだ。
ああ、なんか胸が痛いな。愚かな程にまっすぐな君達のひたむきさ、俺にはなんていうかキツすぎる。苦々しい、て言やいいのかな。わかんないや。
「……ねぇギンタ……私って、足手まといになってないかな……?」
スノウ姫の声が遠くに聞こえる。「んなことねえ!」と叫び、ギンタが勢いよく小柄な少女を背負い直した。
「お前はリッパに戦ってるぞ!! だけど……これからはあきらめない、だけじゃなくてよ。無理もするな。お前死んだら……エドもジャックもナナシもバッボも……シーやアルヴィスやドロシーだって……みんな悲しいぜ」
「……うん……」
△▼
「……わお青春」
「お前は……」
眉をひそめたアルヴィスが振り返り、目を見開いた。え、なにその顔。どしたんだよアルヴィス。
「……お前がどうした」
「は、何」
「なぜ……」
言いかけ、アルヴィスは首を振る。
「……いや、なんでもない」
「は?」
「なんでもない」
目を合わせないまま、アルヴィスが俺に近付いた。伸ばされる手。そっと置かれるぬくもり。
えっなに?何これご褒美タイム?
「……シー」
「えっまじアルヴィスなに」
動揺しまくる俺をよそに、アルヴィスは俺の頭に手を置いただけで何も答えない。えっまじなんなんだよ、ほんと。
火山へ目を向ける。スノウ姫を背負い帰ってくるギンタの足取りはまっすぐで。
ああなんか、辛いかな。
だって俺きっと、悲しくないよ。
誰が死んでも、自分が死んでも。
△▼
「……シー」
蒼眼の少年の呟きは届かない。
「……なぜ……」
なぜ、泣きそうな顔をしているんだ。