何もかもは望まないから
ごめん、どうやら俺にああいう趣味は無いようだ。
ギンタが出したガーディアンアームを眺める。マジックストーン4つ目のタイプ、「聖なる守護者アリス」だとかなんとか。
ゴスロリ露出キレイめ天使フォルムはギンタに掛けられた呪いを解いた、そのついでに観戦者にも恋の魔法をかけてったんじゃないかと俺は思う。特にナナシとかナナシとかナナシとかに。
「俺ギンタと趣味合わねーわ」
「またくだらないことを……」
「俺どっちかっていうとアルヴィスみたいなスタイリッシュイケメンの方が好みだもん」
「馬鹿」
頭殴られた。やべえ痛い。
あれアルヴィス顔赤い?あれ顔赤くね?
「13トーテムポール」
「すみませんでした」
ちょっと調子乗り過ぎた。
「……おめーは変わんねえな」
呆れた顔で葉巻を吸うアラン。煩えよ。
「あったりまえじゃん、俺ウォーゲームに参加した理由の8割方アルヴィスだし」
「え、シーとアルヴィスはどういう関係なんすか……?」
ジャックがちょっと引いた目で見ている。返答次第ではこれからの付き合いが変わりそうだ。
「こいび」「6年前からの知り合いだ」
思いっきり足踏まれた。まじ痛え。
△▼
「なんとか勝ってきた! ピース!」
ギンタがにかっと笑ってVサインを作る。
「お疲れギンタ! でも妄想をアームに全力放出するのは良くないと思うよ俺! 性癖は人それぞれだし!」
「何言いだしてんのかなお前はー?!」
あは、ごまかしても無駄だよギンタ。
スノウ姫の君を見る目が変わってるからね。
「……シーの言う通り、妄想で作られたガーディアンだね。ギンタ、ああいうのが趣味なの……?」
ああほら可哀想に、とくつくつ笑う俺の肩に、ぽんと手を置くアルヴィス。え、何?と振り返った俺のすぐそば、綺麗に整った顔。不覚にも驚いた。いくら俺だってびびるよ、アルヴィス。
「……お前も人の事言えないだろう」
「え、なにー? 趣味は良いと思うよ、俺」
くっくっ、と笑い、俺はすぐ側の白い頬に軽く口付ける。あは。
「……! なっ、」
「油断大敵、てえ?」
あは、と愉快に笑う俺を見て、アルヴィスが眉根を寄せた。ふふ。美形だからなんでも決まるんだけどね。
「……お前は、本当に」
「んー?」
一気に不機嫌になったアルヴィスに背を向けた。ケンカしたいわけじゃないからな、退散退散。
俺がすたこらさっさと歩き出したその時、ぐいっ、と肩を掴まれ引っ張られた。
「は、何」
ぎょっとした俺の視界が、暗くなる。
多分、俺はさぞかし間抜けな顔をしていたと思う。
「……油断大敵、なんだろう?」
何故か得意げに言い、アルヴィスが俺の顎から手を放す。
「……は、ちょ」
「シー」
思わず声を上げた俺に、歩き出すアルヴィス。
「次は俺が出る」
首だけひねり振り返ったアルヴィスは、珍しく穏やかな笑みを浮かべていた。
「今度こそ、ちゃんと見ていろ」
「……は」
唇をなぞり、俺は息を吐いた。
ちらり、火山の立ち並ぶフィールドへ向かうアルヴィスを見る。その背中は、やっぱりどこまでもまっすぐで誇り高く。
「……やになっちゃうなー」
言うつもりのなかった言葉が、なぞる唇からこぼれ落ちた。
ぬるい体温の宿るそこには、重ねられた唇の感触が未だ残っている。
ねえ、駄目だよアルヴィス。こういう事されるとさあ、俺、余計胸が痛くなるんだ。
だって、俺はお前が思ってる程いい奴なんかじゃないから。
△▼
「……あの2人って、どんな関係なんスか?」
「なんか微妙な感じだよな。仲良いようで仲良くねえみたいな」
鋭いな。
引いているジャックとは対照的に、真顔で口を開いたギンタの言葉に内心で呟く。
アランは新たな葉巻に火を点け、言った。
「……あの2人は、6年前からあんな感じだ」
ふざけ合うように馴れ合い突き放す。
「……特に、シーの奴は……」
言葉を切り、煙草をくわえる。
唇を押さえ佇む、そんなに離れていないのにどこかひどく遠い印象を与える彼を眺めた。
「……え、シーがなんだって?おっさん」
「……なんでもねーよ」
遠目にも見える俯いた顔は、普段とはかけ離れた暗いもので。
やりきれない思いに、アランはただ紫煙を吐く。
シティレイア、おめーは自分が思っているよりも、もっとシアワセになるべきだと、俺は思うんだがな。