Hello,これが俺達の日常(下)
「……ってワケでただいまーっ」
「煩い」


 なにやらぼろぼろの2人がボンゴレのアジトに無事たどり着いたのは、そろそろ夜が明ける時間帯だった。
「2人とも、だ、大丈夫……?!」
 自らの座る広々とした事務机の前、ツナが心配そうに眉根を寄せて痛々しい表情を作る。
「見ての通り平気だよ、恭弥がキスしてくれるって言ったし」
「何言ってんの本当に咬み殺すよ」
「すみません調子乗りました」
 ぐぐぐ、と自身の頬に左手のトンファーをめり込ませる雲雀に、冷や汗をかきながらも笑みを浮かべされるがままになっている夜無月。
 全身傷だらけのわりにいつも通りの振る舞いを見せる、そんな2人にツナは苦笑した。
「……わかった、とりあえず報告は明日でいいよ。2人共本当にご苦労様。ゆっくり休んでね」
「ありがとツナ、休みの日にはまたデートよろしく」
「本当に何言ってんの君」
 脇腹にトンファーを押し付ける雲雀に痛いバカ、と笑い、夜無はその腰に手を回した。
「?!」
「このまま部屋までよろ」
「いいトシして語尾に星マーク付けるの本当に気持ち悪い。この場で咬み殺すよ?」
「雲雀さん、それはいいですけど頼むんで俺の部屋に血痕残さないでくださいよ」
「ツナも言ってくれんなー」
 ばいばい、と夜無は雲雀の腰に手を回し、身体を支えたまま部屋を出て行った。
 眉をひそめ文句を言いながら雲雀も手を放そうとはしないのだから、ツナは苦笑をやめられない。相変わらずだな、と思いながら、静かに2人を見送った。


***



「……ツナ」
「わかってるよ、リボーン」
 しばらくの間、閉まったドアをじっと見つめていたツナはため息をつき振り返る。
 いつの間にいたのか、もう随分と薄くなってしまった月光に照らされた窓枠に、見慣れた家庭教師の姿があった。
「……夜無月君、かなり無茶してるね」
「まあ内容が内容だからな。むしろこんだけ早く帰って来れたのが奇跡だ」
 まあアイツだから成せる技だけどな、とリボーンはニヒルに笑い、帽子のつばを上げる。
 もう、とツナは再びため息をついた。
「……ちょっとは控えるように言ってよ。リボーンの言う事ぐらいしか聞かないんだから、夜無月君は」
「ま、気が向いたらな」
「もう……」
 ツナは一瞬、その瞳に珍しく怒気を浮かばせたが、結局は呆れた顔で肩をすくめた。そのまま、手慣れた仕草で胸ポケットの携帯へと手を伸ばす。
「……もしもし、ディーノさん?……はい、オレです……いえ、ちょっとお願いがあって……」


「……アイツは誰の言う事も聞かねーぞ」
 携帯越しの会話にすっかり意識を向けている生徒に目を向けて、リボーンはボソッと呟いた。
 その口元に笑みはなく、下げられた帽子のつばから覗く目元はどことなく暗い。

「……自分の命の残量を、知っちまってるからな」


 じゃあ、よろしくお願いしますね、
 そう言って通話を切ったツナには、その言葉は届かなかった。


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